天女と矛盾-1
・・・石崎佑香 千年少女編・・・
遥か古の昔極東の島国に見目麗しい少女たちが天空より舞い降りる。後の世に少女たちは「天女」として語り継がれるが、今尚数少ない天女の血を引きし少女たち「天女の末裔」は存在する。
同時に矛盾(むじゅん)と呼ばれる天女を守る従者も同様に少数ながらその数を残す。彼らは文字通り天女に取って道具にしか過ぎず、その身を守る為だけに存在する。
天女と矛盾互いにその残存数も減り、長きに亘り地上の者と交わる内にその血も薄まり消えゆこうとしている。
共に古の時を経て今はもうその存在意義、使命すら忘れかけ互いを認識する事すら困難になっている。
唯一互いを認識し合う術・・・、それは互いに血が触れ合う事のみ。
故に微かな記憶を残す矛盾たちは、天女を求めその使命感からあらぬ暴走を見せる者たちが散見される様になる。
時に1984年
地上における地方都市
天女も矛盾も今はもう互いの存在すら認識出来ない程の時代。
矛盾の血を引く少年は偶然にもそれと知らずに、天女の血を引く少女とクラスメートになり好意を寄せる。
だが残念だったのは矛盾である少年がその血を色濃く有してはいたが、一般的な盾型で有り稀有な存在の矛型では無かった事。
そして何より肝心な天女の末裔たる少女の血が非常に薄かった点である。
もしも少年が盾型より矛型に変異を遂げ、少女の血が色濃く再現され互いが交わる事になれば・・・ 残念ながらこの年代においてそれは実現されなかった。
天女の血は母から娘にのみ引き継がれ、同時に能力の譲渡に伴い譲渡した者の命は燃え尽きる。
つまり天女の血を引く女性の、女児出産は死に直結する運命となる。
再び1984年
・・・とある地方の中学校にて、天女の血を引きし少女石崎佑香(いしざきゆか)に、矛盾の盾型である少年千章流行は偶然にも出逢う。
しかし少年の少女に対する想いは歪んだ形でしか表されず、互いに薄れた血ではあったが触れ合う事無く「千載一遇」の機会は露と消えたかに思われた。
しかしそれより4年後の1988年、運命はほんの僅かに動き始める。
天女の末裔たる石崎佑香はその血薄いながらも、成長するにつれ麗しい程の美しさを放ち始める。
同時に内に秘められし、もう一人の自分も目覚めてゆく事にもなる。
それは本来天女に課せられた使命を果たすための第一段階となりゆるさまでもある。
その血の薄さゆえ本来の使命を想い起せぬ佑香は、地上界へのより近き存在とまやかしの触れ合いに興じる事を繰り返していた。
1988年
一度は触れ合いかけた天女(天女の末裔)と矛盾(盾型)は再びめぐり逢う事になる。
本来矛盾は天女を守る為の道具にしか過ぎない。
その為なら矛盾は身を挺しても、危険から天女を守る運命を義務付けられている。
この時千章少年が自らに課せられた運命故に、少女の元に向かったのかそれとも自らの思考に基づいた上での行動であったのかは知る由は無い。
しかし偶然では無く千章少年の意思で、その場に居合わせ行動した事は事実である。
それは4年前の行為を「詫びる」為、少年はそれと知らず再び少女の元へ向かう。
輝きを放ち始めた天女はその宿命故、その地の異性の目をそして欲望を望まぬも引き寄せる。
それは現在の地上においても非常に危険を伴う。
本来天女は自身でその身を守る為「超常の力」も、その美目麗しい魅力と同時に合わせ持つはずである。
だがそのバランスの取れぬ者、「超常の力」弱く「麗しの魅力」強き者も存在する。
その為にも「矛盾」たちは存在しうる。
けれども今の佑香はその血薄く、「超常の力」は発現されず「麗し魅力」のみ現れ始めていた。
更にその身を守る「矛盾」も周囲には存在しない。
現世において同様のケースは多々存在する。
それは時に「ニュース」となり人々の関心を引く事になる。
しかしその真相を知り得る者は少なく、時として当事者である「天女の末裔」ですらそれを知らぬまま消えゆく運命となる事も少なく無い。
今、石崎佑香もそのひとつとなろうとしていた。