赤木智紀-5
香織が心配気な表情で覗き込んできたので正直に答えた。こんな時、姉のような存在の香織が居てくれてとても助かる。
「なっちゃんのパンツ見てしまった」
「パ、パンツ!何よそれ」
「襲われるような目をして『いやあああ』って…」
「なになに、全然わからないよ。最初から言ってみな」
オレは学校の廊下での出来事を、順を追って説明した。
「オレ、あんな目をされて、なっちゃんに会わす顔ないよ」
「バーカ」
香織はそう言ってクスクスと笑い出した。
「なに笑ってんだよ。こっちは真剣に悩んでるんだぞ」
「あのね。智紀に襲われるのが怖くてそうなったんじゃないと思うよ」
「じゃあ、どうして」
じゃあ、どうしてあんな目をするんだろう。
「恥ずかしいからに決まってるじゃない」
「恥ずかしいだけで、あんな顔しないと思うぞ」
「あのね、何も思わない人に対してだったらそうならないよ。大好きな人だからパニックになったのよ」
「だ、大好きだって?それってオレのことか?そんなこと有るわけ無いだろ」
一方的に好きになった覚えはあるけど、好かれた覚えは無い。それになっちゃんのそんな素振りなんて見たこともないぞ。オレは都合のいい香織の恋愛萌え萌え脳に呆れかえった。
「バカ、あんたホントに何も気づいてないの?」
「何が?」
「練習中になっちゃんが智紀を見つめる目は、いつもハートになってんのよ」
「うそつけ」
「うそじゃないって、今から彼女に電話してみなよ。なっちゃんもパニックになって智紀に謝れなかったことで落ち込んでるはずよ。智紀からの電話に絶対に喜ぶって」
「まじか?」
「智紀は女心がわかってないなあ」
「そうかな」
イマイチ納得できないけど、クヨクヨしていても解決しないことには間違いない。このまま砕けるにしても、何もしないで嫌われたまま砕けるのは嫌だ!
どうやら香織の後押しで電話をする勇気が湧いてきたようだ。普段は小うるさい香織だけど、こんな時はやっぱり香織に相談して良かったと思う。
「まあ、頑張って電話してみなよ。ここで電話しないと、あたしが電話番号教えた意味無いからね」
「わ、わかった。じゃ、じゃあ掛けてみるから、香織は先に下に行ってて」
「はいはい、じゃあ、頑張りなよ」
香織が部屋から出て行くのを待って、制服のポケットに入れていたスマホを取り出した。
「よし!」
気合を入れて、スマホのボタンにタッチした。そして画面に浮かんだ縦横3つ、計9つのドットの上に指を滑らせて、オレのイニシャルの『T』の字を書いた。これでロックは解除される。
なのに、操作を誤ったのか【やり直してください】の文字が浮かび、ロックは解除されなかった。
「あれ?どうしたんだろ?」
再び指を滑らせたが、結果は同じだった。
変に思ったオレは、手にしたスマホをまじまじと見つめた。
「あれっ?これ、オレんじゃない…」
オレのスマホだったら、画面の端にこの前落とした時のひび割れが有るはずなのに、これにはそれが無い。
どうして?頭の中は『?』で一杯になった。