赤木智紀-4
しばらくなっちゃんの画像を見ながら時間を潰していたが、当のなっちゃんは、なかなか出てこなかった。待ちくたびれたオレは、スマホを手にしたまま、思い切って様子を見るために職員室に向かうことにした。
廊下を歩いていると、遠くの方からタッタッタッと足音が聞こえてきた。
ん?誰か廊下を走ってやがるな。
【廊下を走ってはいけません】
小学校の頃から教え込まれた教訓は守らないといけないだろ。
丁度廊下の角だった。まさかブレーキも掛けずに曲がるバカが居るとは思わなかったので油断していた。
そのバカは勢いのままに角を曲がり、まともにオレにぶつかってきたのだ。
「うっ!」
反射神経のいいオレは、少し体を捻って衝撃を和らげたが、全部の衝撃を吸収することはできずに尻もちをついてしまった。
オレが尻もちをつくと同時に、相手のバッグの中身が、衝撃でバラバラと辺りに散乱した。
「イテテ」
オレが腰をさすりながら、ぶつかってきたバカを見て驚いた。
「な、なっちゃん!」
オレは驚きの余り、心の中だけのシークレットコード【なっちゃん】を口に出してしまった。オレは慌てたが、当の本人はショックで呆けていてるために、オレのシークレットコードは、彼女の耳には届かなかったようだ。
そんなことよりも、オレはなっちゃんの姿に目が釘付けになっていた。尻もちを付いた状態でスカートはめくれ上がり、開き気味の太ももの奥に白い下着が見えていた。
普段はバスパンに隠れている健康そうな太もも、それに白い布に包まれた股間にオレの目がチカチカした。
「ゴクリッ」
思わず生唾を飲み込んだ。その雰囲気にハッとしたなっちゃんは慌てて足を閉じて、スカートを直して下着を隠した。
そして改めてオレの顔を見たなっちゃんの視線と、オレの視線が重なった。なっちゃんの目は恐怖の余りに見る見る内に見開かれ、その驚いた表情のまま大粒の涙を流しだした。
そして、「いやああああ」
と、まるで襲われでもしたように叫び声を上げた。その後、散乱した物をバッグの中にグチャグチャに詰め込んで、呆気に取られたオレを残してそのまま走り去ってしまった。
オレはハッと気を取り直して、なっちゃんの背中に向かって叫んだ。
「本多―――――!」
しかし、なっちゃんはオレの声に振り向いてくれなかった。
後に残されたオレの虚ろな目には、恐怖に染まったなっちゃんの顔が焼き付いていた。
しばらく呆然としていたが、ここに居てても仕方がない。オレはぶつかった拍子に落としたスマホと自分のスポーツバッグを拾うと、肩を落としながらトボトボと帰宅の途についた。
家に帰ると、そのまま自分の部屋に向かい、着替えないままベッドに体を投げ出した。
泣いてたなあ。それにあの目…。オレはあの目に打ちのめされた。
とんでも無いことをしてしまった。なっちゃんの下着ガン見してしまった。そんなオレに対してなっちゃんが向けた目は、今にもオレに襲われるような恐怖に満ちた色が浮かんでいた。
どうしよう、どうしよう、明日会わす顔がない。
そんな時、ノックの音がして香織が入ってきた。
「智紀、もう直ぐご飯できるって。んっ?どうしたの暗い顔して。なっちゃんどうだったの?」
オレは暗い顔をしたまま何も言わずに首を横に振った。
オレはなっちゃんの様子を見るために、校門で待つことを香織には伝えていた。オレの帰りが遅くなったら、先に叔母一家との合同食事会を始めて貰おうと思ったからだ。
「なっちゃんと何かあったの?」