本多夏子-5
『ほ、本多、聞いてる?明日交換して欲しいんだけど、少し早めに学校に来れる?』
「えっ…」
交換?そ、そうすると、智くんに会わないといけない。ぶつかったことも謝ってもいないし、今も思いもしなかった迷惑を掛けている。
会わす顔なんて無いよう。
あたしの目からまた涙が溢れてきた。
『い、いいな、じゃあ明日な』
「待って!」
智くんが電話を切ろうとしたので、あたしは慌てて引き止めた。
『ど、どうした』
「智くんお願い、スマホの中は絶対に見ないで」
智くんの画像が保存されているのがバレたら、益々顔が会わせられない。
しばらく無言だったスピーカーから、申し訳なさそうな智くんの声が聞こえてきた。
『ご、ごめん…』
その言葉を聞いて、何を見られたかを察したあたしは慌てて通話ボタンを切っていた。
目から涙が溢れ、恥ずかしさと情けなさが頭を巡って、訳がわからなくなってきた。
「うわあああああん」
気づけばあたしはスマートフォンを握りしめたまま号泣していた。
しばらくして泣き疲れたあたしは、ボンヤリとスマートフォンを眺めた。気になったことが有ったからだ。
「【なっちゃん】て何…」
これは智くんのスマートフォンよね。どうしてあたしの電話番号が登録されているの?それもあたしの愛称で。
幾ら考えても答えは一つ。持ち主の智くんが登録したからよね。でも、番号なんて聞かれた覚えはないし。
あたしはもう一つ赤面級のことに気づいた。智くんがあたしのスマートフォンで、今あたしが持つ智くんのスマートフォンに自分の電話番号に掛けると…。
ああん、恥ずかしい。
そう、あたしのスマートフォンに『智くん♪』の文字が浮かんだはず。それを見た智くんはどう思ったんだろう。名前の後に『♪』なのよ。