本多夏子-3
あたしは勢いのまま廊下を走り、角を曲がった途端に、出会いがしらに誰かにぶつかってしまった。
その衝撃でスポーツバックと手下げは手を離れ、ファスナーを締めて無かったスポーツバックの中身と、手下げの中身が辺りに散乱した。
尻もちを付いたあたしは、一瞬何が起こったのかわからなくて、しばらくそままの状態で呆けていた。
ふと股間に視線を感じてハッとなった。
尻もちを付いた拍子に、あたしのスカートはめくれ上がり、やや開き気味の太ももはおろか、その上、恥ずかしいことに下着までもぶつかった相手に晒していたのだ。
あたしはあられも無い自分の状態に驚いて、慌てて足を閉じてめくれたスカートを整えた。
そして、ようやくぶつかった相手をまじまじと見た。
「えっ…」
あたしは絶句した。
そして、驚いて見開いた目から涙が一気に溢れてきた。
「いやああああ」
パニックになったあたしは、散乱した物を慌ててかき集め、それを滅茶苦茶にバックと手下げに突っ込むと、ぶつかった相手に謝りもしないで、その場を逃げ出してしまったのだ。
「本多―――――!」
逃げるあたしの後ろから、あたしの名前を呼ぶ声がした。
智くんの声が。
…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…
多分、あの時だ。手下げから飛び出したスマートフォンが、床に落ちた衝撃で壊れたみたい。
また、落ち込む要素が増えた。
大好きな智くんに恥ずかしいところを見られてしまったし、謝りもしないで逃走してしまった。
そして、今はスマートフォンの智くんの顔も見れないし、かと言って明日本物の智くんにも会わす顔も無い。
今日のあたしって何て最低なの…。
「はあぁ…」
ため息をつきながら、画面のひび割れの部分をなぞると、突然そのスマートフォンが震えだした。吃驚して手を離しそうになったけど、直ぐにマナーモードの振動だと気づいて、画面に浮かんだ名前を見た。