本多夏子-2
「あれ?どうしたんだろ?」
再び指を滑らせたが、結果は同じだった。
「うそ!若しかしたら、あの時に壊れちゃったかも…」
今朝まで無かったスマートフォンの傷。画面にうっすらと浮かんだひび割れを見つめながら、さっきの辛い体験をもう一度思い浮かべた。
…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…
バスケの練習の後に、あたしは白石先生に呼び出されていた。
またテニス部の顧問を交えての話し合いかと心配したが、それは杞憂だった。職員室で待っていたのは白石先生だけだった。テニス部の松岡先生はあたしの決意の固さにようやく諦めてくれたみたい。
中学時代にテニスでは好成績を収めたあたしだったけど、バスケに関しては全くの未経験者で、入部当初はドリブルもまともに突け無い全くのど素人だった。
それがここのところ自分でも上達していると自覚できるようになり、バスケが本当に面白くなり始めていた。
白石先生はそんなあたしの上達ぶりを褒めるために、ワザワザ声を掛けてくれたみたい。
とても嬉しく光栄でもあったけど、職員室でにこやかに話す白石先生に相槌を打ちつつ、あたしの心の中は、とてもソワソワしていた。
理由は単純、白石先生に時間を取られたら、智くんが帰ってしまうからだ。少しでも智くんと一緒に居たいあたしは、揃って下校するバスケ部の集団の端っこに自分の身を置いていたいのよ。
もう帰っちゃったかも…。
その思いがあたしを焦らせた。先生の話が終わると、丁重なお礼を述べたあたしは、職員室を飛び出した。
もう誰も居ない部室に駆け込み、慌ただしく着替えをすました。その着替えをスポーツバックに突っ込み、そのままファスナーも締めずに愛用の手下げと一緒に掴んで部室を飛び出した。
【廊下を走ってはいけません】
小学校の頃から教え込まれた教訓は守らないといけない。