それぞれの世界-14
「ど、どうしてこんなとこにいるんですか?」
普段のスーツ姿と違って、オフモードの彼の姿が新鮮で、心なしか心拍数が上がる。
「ここ、俺ん家の近くだもん。
むしろ、なんで君がこんなとこにいるのって感じ」
「あ、あたしは……母親からのお使いで……」
「そっか。
家でゴロゴロしてたのを頼まれたって感じだもんな」
そう言われるとあたしは今の自分の姿を見てから、思わず身体を縮こませた。
よく考えたら、まともに化粧もしてないし、部屋着みたいな格好だし。
こんなとこで久留米さんに会うとわかっていたなら、もっとちゃんと化粧してマシな服着てくればよかった。
ああ、本当にこの人の前では恥をかいてばかりだ。
モジモジしながら顔を上げられないあたしに向かって、
「じゃあね」
と、彼はそれだけ言い残すとサッサとレジに向かおうとした。
普段のあたしがこんな格好でいるなんて誤解されるのは嫌だ。
それより何より、せっかく偶然会ったのにこのまま彼を帰すのは何か嫌だった。
気付けばあたしは久留米さんのTシャツの裾をクイッと掴んで、引き留めてしまっていた。