修平の矜持-5
「秋月巡査長」
夏輝が熱い緑茶の入った二つの湯飲みを持って、秋月のデスクにやって来た。
「日向巡査」
実習指導員秋月遼巡査長は、夏輝を見上げてにっこり笑った。
一つの湯飲みを秋月の前に置いて、夏輝も微笑んだ。
秋月は、湯飲みに手を掛けた。「今日は調子良さそうですね。以前よりもかえって元気そうに見えますよ」
「そうですか?」
「何か嬉しいことでも?」
夏輝は恥ずかしげに数回瞬きをした後、少し首をかしげてその上司の警察官を見た。「はい。秋月巡査長のお陰です」
「僕の?」
「はい」夏輝はまたにっこりと笑った。
少しの間を置いて秋月もふっと笑った。「そうですか。それはよかった」
「あ、そうそう」
夏輝はポケットからアイロンがきれいにかけられ、きちんとたたまれたハンカチを取り出した。「遅くなっちゃいました。これ、お返しします」
それは、あの夜、秋月が夏輝に貸してくれたものだった。
「あの時は、本当にどうもありがとうございました」
夏輝はぺこりと頭を下げた。
秋月はそれを微笑みながら受け取ると、湯飲みの日本茶を一口すすった。「8時から巡回パトロールです。準備しといてくださいね」
「はい」
夏輝は立ち上がった秋月に近づき、耳元で囁いた。「もう大丈夫。巡査長の前では弱音を吐きません」
秋月は囁き返した。
「そうしてください。僕の前ではね」そしてぱちんとチャーミングなウィンクをした。
「ペットボトルのお茶、今日はあたしが準備しときます。」
「そう? じゃあお言葉に甘えて」
秋月はまた白い歯を見せてにっこりと笑った。
2013,11,22(2014,1,2) 脱稿
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