揺れる気持ち-1
車内ではしばらくの間会話が途切れていた。
夏輝は窓の外を流れる風景を見るともなく眺めていた。
パトカーが赤信号で止まった。
秋月はドリンクホルダーから自分のペットボトルを手に取り、お茶を一口飲んだ。
交差点の近くに公園があった。木陰のベンチに若いカップルが座っている。その二人は幸せそうに肩を抱き合い、何かを語らっていた。時折彼女の方が彼の顔を見て恥ずかしそうに微笑んでいた。
夏輝の喉元に熱い固まりが上がってきて、その次に目にうっすらと涙が浮かんだ。
夏輝は思わずパワーウィンドウのスイッチを押して窓を閉めた。
信号が青になり、パトカーはまたゆっくりと進み始めた。
秋月は無言で開いていた他の窓を全部閉め、エアコンのスイッチを入れた。
夏輝の瞳にたまった涙がぽろりとこぼれ、彼女は慌ててハンカチで目元を拭った。
パトカーが減速し、路肩に立っている大きな木の陰に入って停車した。
秋月はサイドブレーキを引き、ハンドルに右手をかけたまま、身体を夏輝に向けた。
「どうかしましたか? 日向巡査」
「い、いいえ。大丈夫。大丈夫です」
「具合が悪いんですか?」秋月は心配そうに夏輝の顔をのぞき込んだ。
「ご、ごめんなさい、勤務中なのに……」
秋月は優しい目で夏輝を見た。「身体が疲れている上に、何か辛い気持ちになっているみたいですね?」
「…………」
少し躊躇ったように秋月は言った。「話して楽になるようなら、僕で良ければ訊いてあげますけど……」
「いえ、大丈夫。本当に大丈夫です……」
「少しゆっくりしてるといい。ベルト外して、しばらく目を閉じて、静かに息をしながら……。シートも少し倒して」
夏輝は秋月に言われた通りにシートを少し倒して静かに目を閉じ、一つ大きな深呼吸をした。