雨の季節-1
6月。梅雨の季節がやってきた。あたし、雨は嫌い。だから梅雨の季節は大嫌い。でも…、今年はちょっと違う。なぜって?…蓮からいるから。
「はいはーい。みんな。もうすぐ中間テストだからなー。推薦狙ってるなら踏張りどころだぞ。じゃ、かいさーん!」
いつものように手短にHRを終える藤森先生。自分が早く帰りたいだけなんじゃない?あたしは心の中で笑う。
「霞ぃー。帰りどうする?お茶して帰る?」
鞄に教科書をしまいながら菜月があたしに言う。
「あー、うん…。行く?5つ先の駅に新しいカフェができたから、そこ行ってみる?ちょっと遠いけど。」
蓮と付き合うようになったことは親友の菜月にも話してなかった。もちろん、教師である蓮と、生徒であるあたしが付き合ってることは誰にも内緒にしなきゃいけないんだけど。菜月だけには聞いてもらいたかった。
「…いいよ。たまには違うとこ行ってみたいもんね。」
あたしたちは電車に乗り、いつも降りる駅の5つ先の駅前のカフェへ向かった。
あたしはブレンドコーヒー、菜月はカフェオレを頼み席につく。
「で、霞。いつから蓮ちゃんと付き合ってんの?」
「げほっ!!」
いきなりの予想外の菜月の言葉にあたしはコーヒーを噴きかけた。
「このカフェだって、蓮ちゃんと来たんでしょ?遠いとこじゃないとだめだもんね。」
菜月はあたしを見ながらにやにや笑った。
「な、菜月。い…いつから、なんで…。」
完全にパニック。頭が真っ白、ってこういう時に使う言葉なのね…。
あたしは菜月にすべて話した。夢の話、それが前世でのあたしの記憶だったこと。前世で、あたしと蓮は恋人同士でありなが結ばれなかったこと…。
「信じられないかもしれないけど…。そういうことなの。」
一通り話し終わり、あたしはすっかり冷めたコーヒーを飲んだ。
菜月、信じるかしら?こんな話、信じられないよね?と、思いながら菜月を見ると…。目を潤ませていた。
「素敵っ!素敵すぎるよ、霞っ!よかったね、蓮ちゃんに出会えて…。きっと霞が今まで誰も好きにならなかったのは、頭の…ううん。心のどこかで、蓮ちゃんと出会うのを待ってたからなんだね。ずっとずっと、蓮ちゃんを探してたんだよ。前世の記憶が戻る前から。」
菜月はまるで自分のことのように泣いていた。あたしはなんだか嬉しかった。菜月の言葉が。あたしが今まで恋をしなかったのは、蓮を待ってたから…。
「でもさ、なんで蓮ちゃんは来なかったんだろうね?さくらは…霞は約束の場所で待ってたんでしょ?」
涙を拭き、菜月が首を傾げる。
「うーん…。それはあたしにもわかんないの。あれからも同じ夢を繰り返し見るだけで、さくらはその後どうなったのか、蓮はどうしたのか、わかんないの。」
「ふぅん。蓮ちゃんに聞いてみたら?蓮ちゃんなら来なかった理由、知ってるでしょう?」
それはあたしも考えていた。でも…。なぜか聞くのが怖かった。
菜月と別れ、自宅に帰ってきたあたしは悩んでいた。蓮に、なぜあの時、桜の下に来なかったのか、その理由を聞いてもいいのかな、と。
携帯が鳴る。この着メロは…!蓮だぁ〜っ!!あたしははしゃぎたい気持ちを抑え、冷静な優等生らしく(?)電話に出る。
「もしもし?霞?仕事終わったよー。」
あたしが話すより先に蓮が話す。
「うん。お疲れ。電話…待ってたよ。」
はずかしいっ!あたし何言ってんの?待ってた、なんて。いや、待ってたのはほんとなんだけど。
「霞…。かわいいね。待ってた、なんて。ありがと。俺も早く話したかったよ。霞と。水城じゃなくて霞って呼びたかったんだ。」
かわいいって何よ!?あたしが?鏡を見なくても真っ赤な顔をしてるのがわかる。