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妖怪艶義〜八尺様〜
【OL/お姉さん 官能小説】

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彼は、腰を振り続けた。-3

5
翌朝、俺はかなり衰弱した状態で発見された。
俺を見たKさんはだいたいの事情を察したようで、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

どうやら俺は、村人たちの期待には沿えなかったらしい。
そのせいか、俺はろくに介抱もしてもらえないまま、慌ただしく車に乗せられた。

一緒に乗り込んだKさんと友達は、一様に暗い顔をしていた。

もしかしたら、このままわけの分からない場所に連れて行かれるんじゃないか――そんな不安がよぎったが、友達から「大丈夫だ、心配すんな」と励まされ、後から俺のバイクも付いてきていた(村人が運転していた)ので、とにかく黙っていた。


しばらくすると車が停まり、Kさんに降りるよう指示された。
着いた場所は、なんのことはない国道の上だった。もちろん俺も、来る時にはここを通ってきた。
どうも村の入り口にあたる場所らしく、それに合わせてかどうかは知らないが、道路わきには古ぼけたバス停があった。

「急かしてすまなかった」とKさんから一応の謝罪があったが、彼はすぐに車の中に引っこんでしまった。
とりあえず、バス停のイスに座って休んでいると、今度は友達がやってきた。

その時の話を要約するとこうだ。


――大変な事に巻きこんですまなかった。
とにかく、後は村の人間で処理するから、お前はこのまま帰ってくれ。
本当は休んでいってもらいたいけど、お前を村にいさせるのは‘危険’だから、一刻も早く村の外へ連れてきたんだ。

――バス停の向こうに、赤い線が道路を横切って引いてあるが、あれが‘境界’だ。
村境って意味ではなく、八尺様を閉じ込めている結界の‘境界’ってことだ。
だから、このバス停でならいくらでも休んで大丈夫だ。

――ただし、お前は今後一切、あの‘境界’を越えて村に入ったらダメだ。

最後に「また大学でな」と言い残して、友人は車に戻っていった。
そしてほどなく、車は村へと引き返していった。


とにかく落ち着こうと、俺は友達が置いていった栄養ドリンクをあおり、しばらく下を向いてイスに座っていた。

その時だった。

「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ・・・」

あの声が間近で聞こえて、俺はすぐさま顔を上げた。

数メートルと離れていない道路の上で、女が穏やかな笑顔で手を振っていた。
まるでしばらく逢えない親友を、駅のホームで見送るくらいに親しげに。

でも、俺は気付いてしまった。

彼女が、道路に引かれた赤い線、そのぎりぎり‘手前’で手を振っていることに。


――別れを惜しんで近付いた俺を、村の中に引き摺り戻そうとしていることに。

「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ・・・」

異音を発しながら、白いワンピースの女が穏やかに手を振りつづける。
一見すると牧歌的なその光景が、俺には吐き気がするほどおぞましいモノに見えた。

立ち上がり、もうなるべく女の方は見ないようにしながら、ゆっくりと前を横切り、バイクへと辿り着く。(体中に震えが走って、すばやい動作はとてもできなかった。)

そして彼女に背を向け、一目散にバイクを走らせた。

――ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ・・・。

あの声が耳にこびりついて乱反射し、すぐ後ろを付いて来ているような錯覚に襲われながら、バックミラーなど一切見ずに山道を疾走した。
今思っても、よく事故らなかったもんだと思う。



友達とは、約束どおり夏季休暇明けの大学で再会した。
少し疲れた面持ちで、あらためてあの事を聞こうとしても、「本当にすまなかった…」とぽつり呟くだけで、それ以上は何も話してくれなかった。

そんな感じで、こちらも何か申し訳なく、友達付き合いもしづらくなって、それきりソイツとは疎遠になっていった。





のだが、最近ソイツから、出し抜けに電話がかかってきたんだ。
内容はこう。

――八尺様を閉じ込める結界の一角が、壊れているのが見つかった。

そう告げた後、たっぷり数秒間の沈黙があって、ただ「気をつけろよ」と一言。それでアイツは電話を切ってしまった。

もう何年も音信が途絶えていたのに、わざわざ伝えてくれた事に感謝すべきか。
それとも、何も知らずに生きれていたほうが良かったのか。

今こうやってお前にメールしてるけど、アイツからの連絡があってから、もう何日も俺は部屋から出ていない。

なぁ、俺はいったいどうしたらいい?





これが、私が友人から聞いた話だ。
友人によるとこの話は、彼の友人の身に実際に起こった出来事らしい。
要するに、私の友人の友人の体験談、ということになる。


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