少しだけ、揺れる-14
あの無愛想な久留米さんが笑ってくれたおかげで和やかになりかけた空気も、あたしが余計なことを言ったせいで、再び張り詰めてしまった。
久留米さんは、テーブルに置いていた煙草のボックスとライターをポケットにしまい、そのまま喫煙室のドアノブに手をかける所だった。
「じゃあ」
久留米さんは、それだけ言ってドアをガチャリと開ける。
せっかく久留米さんとお話できたのに、このまま彼を黙って帰すとまた心を閉ざされて行くような気がしたので、あたしは慌ててさっきの缶コーヒーを握りしめ、
「あの……、あたし缶コーヒー飲めないんです。
やっぱりもらってくれませんか」
と、彼の背中に向かってしぶとくお願いしてみた。
すると、久留米さんはゆっくり振り返ってあたしの持っている缶コーヒーをジッと見た。
すでにいつもの無表情になっていた久留米さんに少し怯んでしまう。
すると彼は、無表情のままあたしの方に向かって歩いてきた。
「俺、無糖がいいんだけど」
愛想のない冷たい声でそう言い放つ久留米さん。
その冷たい声にこみ上げそうになる涙。
行き場をなくした視線は、金色の缶コーヒーを見つめるしかなかった。