つがいの条件-1
ずっと がまんしてたんだ
おまえ、さいこうにうまい
くってもくっても あきない
もっとほしい
でも……いたくしたり なかしたくねぇんだ
だってよ、ちくしょう、うまくいえねぇけどよ、つまり、たぶん……
おれは おまえが すきなんだ
腕に抱く感触がやけに心地良い。
何かふわふわしたものが頬をくすぐる。
いい匂いがする。
ずっと傍にいるのが当たり前になった馴染みの香りだ。……でも、こんなに近くで感じるのは随分久しぶりに思う。
ジークはまどろみながら、小さな身体を抱き締めた。
「ん……」
掠れた少女の声に、薄く両眼を開く。
「――――っっ!!!?????」
すぐマルセラの寝顔があり、瞬間的なパニックを起こしてのけぞった拍子に、かけ布団ごとベッドから転げ落ちた。
運動神経に自信はあったが、そもそも長身のジークにとって、一人用のベッドを誰かと使うのは窮屈だ。
ベッドの他には小さなチェストと置き時計、それに武器ケースしか置かない殺風景な寝室は、ここに越して来る前からたいして変わらない。最大の違和感は、自分以外の小さな寝息がすることだ。
硬い床で身を起し、そろそろとベッドの上を覗けば、やはりシーツの上には、ぐっすり眠る幼妻の姿があった。
――一瞬、とうとう欲求不満からリアルな幻覚を見たかと思ったが、すぐに思い出した。
夢でも妄想でもなく、しっかりと現実に、マルセラを抱いた。
ぐったりと眠っているマルセラは、疲れきっているようだ。
それもそうだろう。昨夜とはいえ、行為を始めたのはすでに深夜すぎだった。カーテンを引いた部屋は薄暗いが、時計はすでに正午を指している。
我慢に我慢を重ねた末、ようやく抱いた身体は信じられないほど気持ちよく、途中から理性は完全に消し飛んでいた。
ケダモノか、俺は。もう止めてやれ。マルセラが壊れそうじゃねぇか、と……元々少ない良心が咎める声も無視した。
抱いても抱いても足りず、ようやく眠った時には朝日が昇っていたように思う。
横たわる白い肌には、至るところに口づけの鬱血痕が残り、所々には歯型までついていた。
閉じた足の付け根に目を向ければ、更に凄惨だった。割り開かれた箇所は既に口を閉じているが、これでもかと言うほど注がれた体液が溢れ出て、内腿へ白くこびりついていた。
いったい何度中に出したのか、恐々と思い出しながら数え……途中で耐え切れなくなってやめた。
――死ね、俺。
とりあえず自分の頭をぶん殴り、急いで放り捨ててあった衣服を身につける。
ガキの頃、慈善学校の小煩いシスターから、『殴られた人がどんな気持ちか、相手の身になってよく考えてみなさい』と、しょっちゅう説教されたものだ。
ケンカふっかけてくる相手を殴って何が悪ぃんだよと、あの頃はロクに返事もしなかったが、さすがに今回は反省しているから、よく考えてみた。
もし自分が女で、初体験にこれだけの抱き方をされたら――相手の男は間違いなく半殺し……いや、殺すな。
がっくりと床に両手をついた。
「ふ……くしゅっ」
眠っているマルセラが、小さく身震いしてくしゃみをした。
大きな瞳がパチリと開く。
まだ少しぼんやりしていた視線がジークをみつけ、見る見るうちに頬へ赤みがさした。慌てた様子でシーツをひっぱり裸体を隠す。
無言のまま、強張った表情で互いの様子を伺う時間が、しばし続いた。
「……身体、大丈夫か?」
やがて気まずい沈黙に耐え切れなくなり、我ながらアホなを質問をしてしまった。大丈夫なわけがあるか。
「うん、平気」
マルセラは意外なほどしっかりした声で答え、身体を起こした。
「う……わ?」
途端に鬱血だらけの細い肩がビクンと奮えた。マルセラがなんとも言えない気持ち悪そうな表情を浮べ、下腹に視線を落とす。
どこがどういう風に気持ち悪いのか、女の情事後処理など興味のなかったジークでもさすがに想像でき、頭を抱えたくなった。
浄化魔法でも使えればこういう時は便利だろうが、生憎とジークは魔法なんか使えない。
反して、マルセラは優秀な魔法使いだが、さすがにこの状態でそんな気力はないだろう。
半泣き顔のマルセラを、シーツに包んだまま横抱きにかかえる。
「身体洗うから、大人しくしてろ」