その存在に祝福を-6
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エメリナは打ち込み終えた論文を揃えてファイルに閉じた。パソコンの電源を落とし、そろそろ帰ろうかと時計を見上げる。
携帯が不気味な曲を奏でたのは、その時だった。
ちなみに、ホッケーマスクを被りチェーンソーを振り回す怪人の出てくるホラー映画のテーマ曲だ。
「うそ!?」
かかってくるはずも、かけるはずもないが、念のためにと登録しておいた番号だった。
ゴクリと唾を飲み、恐る恐る通話ボタンを押す
〔腹黒ハーフエルフ、誰にも言わないで、今すぐ駅前の東モールに来い〕
低い凶暴な声に頬をひきつらせ、エメリナは恐る恐る口を開いた。
「……コノ電話ハ、現在使ワレテ……」
〔おいコラァァ!! 微妙に上手いのが余計にイラつくんだよ!!!〕
怒鳴り声に耳を押さえ、エメリナは冷や汗をかきながら反論した。
「そっちこそ、どう聞いても脅迫電話じゃない! ちゃんと用件を言ってよ!」
電話口で怒鳴ると、忌々しそうな舌打ちが聞えた。
〔っ…………服を……選んでくれ〕
「服? 貴方の?」
〔俺の服を選べなんて頼むかよ! マルセラの誕生日プレゼントだ!〕
「へぇ〜、マルセラちゃん、誕生日なんだ。おめでとう」
やっぱり、あの子には優しいんだと、他人事ながらニマニマしてしまう。しかし電話口でジークは妙に口ごもった。
〔……いや、きっと、今日じゃねぇんだ〕
「え?だって今……」
〔いいから、とにかく来い! 心配ならギルベルトを連れて来てもいい! 東モール二階の休憩所だからな!!〕
それだけまくし立てると、電話は一方的に切られてしまった。
ツーツーと鳴る電話を手に、エメリナはポカンと立ち尽くす。
「う、う〜……どうしよう……」
まさかジークに頼みごとをされる日が来るとは思わなかった。
ギルベルトが居れば、一緒に行ってもらえるのだが、彼は生憎と外出中だ。
今日の郵便で、知らない店から招待状が届き『必ず一人でお越しください』と書いてあったらしい。
どこか胡散臭い招待状だが、記されていた金色のトカゲの紋章に、ギルベルトはいたく興味を示し、先ほど出かけてしまったのだ。
(マルセラちゃんへの、プレゼントか……)
そもそもエメリナに頼む辺りで、どうやら相当に切羽詰っているようだ。
それにマルセラの為だというなら、手を貸したい気もする。ほんの少ししか見ていなくとも、彼があの子をどれほど大切にしているか、容易に感じ取れた。
凶暴な退魔士が怖くないと言えば嘘だが、あの姿には、なんだか感動してしまったのだ。
「……しょうがないなぁ」
小さく溜め息をつき、エメリナは急いでコートを羽織った。