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大陸各地の小さな話
【ファンタジー その他小説】

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ラインダースの系譜-1

*満月綺想曲と異種間交際フィロソフィアを、先に両方お読み頂くことをお勧めします。

 ――ギルベルトが十歳の時だ。

「どれほど苦しもうと、お前の身体が電気を拒否するのは変わらんよ。そんな無駄な苦労に、何の意味がある。重要なのは所詮、過程ではなく結果だ」

 祖父は物置の床に座り込んだギルベルトを、厳しい顔で見下ろしていた。
 なんとか電気製品を使えるようになりたくて、電卓でこっそり特訓している最中だった。
 耳をつんざくノイズは辛く、物置の床に転がって耐えていたら、不意に現れた祖父に、電卓をひったくられたのだ。

 ときおり遊びに来る祖父は、普段は王都で錬金術師をしている。頬と額に目立つ火傷痕があるが、整った顔立ちは五十を過ぎてもなお秀麗さを残し、その細身とあいまって、若い頃はよく女性に間違えられたらしい。
 ウリセスがお爺ちゃんになったら、こんな感じなのだろうかと、ギルベルトはよく思う。

 祖父を大好きで尊敬しているし、頑固でちょっと口が悪いのだって、いつもなら気にならないけれど、今日ばかりは顔をしかめて言い返した。

「返してよ。無駄な苦労じゃなくて、一生懸命努力してるんだ。俺だって諦めないで努力すれば、電気が大丈夫になるかもしれない」

「諦めが肝心という言葉は知らんのか? 死にそうな顔でひっくり返っていたのは誰だ」

 黒い手袋をはめた右手で、とり上げた電卓を上着のポケットにしまい、祖父は片眉を吊り上げた。

「努力や信仰で不可能も可能にできるというのは、危険な考えだ。はっきり言って世の中には、努力ではどうにもならんことのほうが多い」

「っ……でも……」

 悔しさに涙が滲む。
 優秀な錬金術師の祖父は、非常に現実的で、嘘や誤魔化しの言葉が大嫌いだ。だから、祖父の言葉は、たとえ相手が子どもでも容赦がないことが多い。
 優しい嘘の慰めが欲しかったわけではない。けれど、さすがに腹が立った。

「努力の何が悪いんだよ!じいちゃんだって努力して、無くした右手の代わりを造れたんだろ!?」

 黒い手袋を指すと、祖父は顔をしかめ、小さく溜め息をついた。手袋を外すと、機械でできた銀色の右手が露になる。



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