昼の静香と夜の静香-4
リビングへ入ると若菜が入れ替わりで出て行き二階に上がる。
「あれ?若菜??」
「すぐ戻るわよ。帰りが遅かった時は寝てる小さな弟達にただいまの挨拶するのが日課なのよ。」
「あ…」
それは酔っ払いながら若菜が話していた正芳の行動を思い出させた。きっと構ってあげられない事を謝りながら頭を撫でているのだろう。また胸が熱くなる。
正芳の命日は8月20日だ。命日は勿論の事、毎月20日に必ず墓参りをし、そして若菜の目を盗んで上原家に来て仏壇に手を合わせている。毎月必ず麗子とは顔を合わせている。若菜が思っている以上に2人の面識は濃いものだった。
2階から戻って来た若菜。4人でコーヒーを飲みながら会話する。大好きな先輩の事を嬉しそうに話す若菜を優しい笑顔で聞く麗子が印象的だ。優しく笑い、そして頷きながら長い間娘の話を聞いていた。
「若菜が静香ちゃんの事が大好きなのは分かったから、ほら、あまりお引き留めしちゃ悪いでしょ?」
「あ、もうこんな時間だ…。そっか、これからお2人はお楽しみですもんね!」
「えっ!?」
言葉に困る静香と俊介。何が楽しくてニヤニヤしてるのか分からない若菜に見送られて玄関を出る。
「またね?」
「はい!」
いつも麗子の優しい笑顔に救われる静香。深々とお辞儀をして帰って行った。
「素敵だなぁ、静香先輩♪私もああいう女性になりたいなぁ…」
ポ〜ッとする若菜。
「まず痩せなきゃね。」
「う〜ん…」
カツ丼好きな娘に意地悪な言葉を言ってみたりした。
一方、車は俊介のマンションへ着いた。口数少ない静香に、敢えて何も言わなかった俊介。こういう時はいつも自分の部屋に来て甘えて来るのは知っている。だから部屋に来るかどうかは聞かなかった。
車を降り俊介の腕を強く抱きしめながら歩く静香。俊介の部屋に入るとすぐにキスを求めた。
「静香…」
「俊介…。んんん…」
積極的なのは静香のほうだった。俊介の首に手を回し先に舌を絡ませる。静香のおびえ気味な舌を優しく迎え入れる静香。それだけで静香はずいぶんと救われる。正芳が亡くなってから静香は俊介にずっと支えられてきた。全国に名を知らしめる程の静香だが、家に帰ればか弱く優しい女性だ。知っている人間が見たらショックを受けるであろう程の甘えたがりで、そして彼氏に尽くす女。俊介しか知らない静香の本当の姿だった。