〈ホールドアップ!!〉-13
『よくここまで戦ったな。褒めてやるよ』
「あぐッ!!ゆ…優愛あぁぁぁぁ!!!」
八代は蹴りあげる時の支点となる足を蹴り、景子を床へと倒してしまった。
いかに強いとは言っても、倒されて伸し掛かられてしまっては、もはや為す術は無い……あの日の瑠璃子と同じく、八代に両手首に手枷を嵌められ、物も同然に妹の待つ部屋へと引き摺られていった……。
「お姉……さ…ん…!?…嫌あぁぁ!!」
「優愛ぁッ!!はな…離せぇッ八代ぉぉぉ!!!」
白いYシャツと、ピンク色のベストにスカートの職場の制服のまま、優愛は小さな檻の中で踞っていた……それは人間に用いる事が既に最大の侮辱と呼べる代物で、明らかに犬用の檻であった……。
『優愛ってのは、この“牝犬”の事だったのか?お前も……この檻に入れよッ!!』
「誰が…ッ…誰が牝犬……あぁぁぁぁッ!!!」
八代は手枷に結ばれた麻縄を檻の中に通し、グイグイと引っ張った。
倒れまいと景子は踏ん張っていたが、髪を掴んで押し倒され、悲鳴をあげながら檻の中へと引き摺り込まれてしまった。
その様は、あの日の麻里子と同じだ。
そしていつもと変わらず、手枷に繋がれた麻縄は目の前の鉄柵に結ばれ、両膝までも檻の隅に固縛させられてしまった。
『な…なんだよ。もう終わってたか…?』
フラフラとしながら、ようやく専務が姿を現した。
口元を血で滲ませて顔を真っ赤にして、膝に手をやって身体を屈めているところを見れば、まだダメージは大きく、立っているのがやっとなようだ。
『て…手子摺らせやがって……この…このクソ牝がぁ!!』
悔しさと安堵の混じる叫び声を専務はあげた。
春奈は想定外に強かったし、景子がここまで八代を追い詰め、しかもこの船室まで辿り着くとは思ってはいなかったからだ。
『だから昨日の夜に言っただろ。「甘くみるな」ってなあ?』
『……ああ、悪かったよぉ』
八代に肩を叩かれて、専務の顔は苦虫を噛み潰したように引き攣った。
間違いなく八代が居なければ、誰も二人を止められなかったろう。
いや、恐怖すら感じさせた景子の強さは、たった一人ででも、この集団を全滅させたはずだ。
上から目線の八代の態度に軽口を叩きたくなっても、とても口に出せる状況ではないし、そんな空気でもなかった。