オオカミさんの ほしいもの -12
***
(――おいっ! なんつーセリフ吐きやがる!!)
マルセラを抱き抱え、ジークは心の中で盛大に怒鳴りまくる。
あんなに可愛らしく頬を染めて、ちょっと不安そうに潤んだ目で見上げながら、『がんばるから、して❤』とか、反則にもほどがあるだろうが!
――興奮しすぎて、危うく体中の古傷が全部開くかと思った。
だいたい、この三ヶ月間で我慢は臨界点にきていた。
我ながら、よく正気を保ったものだと感心するほどだ。
毎朝、無防備に寝室で擦り寄られるたびに、どれだけこの場で犯してやろうと思ったか。
だいたいマルセラは昔から、男に対する危機感が足りない。
いつまでも子ども気分で、自分がどれだけ男の欲望をそそる存在に成長したか、まるで自覚していない。
子猫のような大きな瞳に、薄いピンクいろのふっくらした頬。昔から庇護欲をそそる可愛い顔立ちをしていたが、こういう無邪気で無垢な美少女は、メチャクチャにしてやりたいという男の支配欲だって、十分に刺激するのだ。
一緒に街を歩けば、ジークがちょっと目を離した隙に、男に声をかけられている。
小柄な身体に不釣合いなほど豊かな胸元に、あからさまな視線を注ぐ輩も多い。
ジークが睨みつけると、大概の者は慌てて去っていくが、それでもしつこいバカは、マルセラに見せない位置で、速やかに拳をつかって駆除していた。
――俺がどれだけ、涙ぐましい努力をしてきたと思ってやがる!! ……と、マルセラが無自覚になってしまったのは、己が堅固にガードしすぎたせいなのを棚にあげ、ジークは憤慨する。
寄るな触るなと言っていたのは、もちろん嫌いだからではない。健全な男の生理現象として、大変困ったことになるからだ。
自分がいつからマルセラを『女』として見ていたのか、はっきりわからないが、気づいた時にはもう気軽に手を繋いだり抱きあげることもできず、薄着で無防備に近寄ってこられると、困惑するようになっていた。
ベッドに降ろすのさえも、焦りのあまり乱暴にしてしまいそうで、手が震える。
理性がいつ切れるかわからなかったから、幸いにも避妊薬は常備していた。苦い錠剤をペットボトルの水で流し込む。
組み敷いた身体は、十分に成長してもなお華奢で、少し手荒にすれば簡単に潰れてしまうのではないかと、不安になるほどだ。
緊張を孕んだ大きな瞳に見上げられると、まるで生まれて初めて女を抱くように緊張してくる。
とても視線を合わせられずに目を逸らし、首筋に口づけながらボタンを外していく。
薄桃色の先端をした豊かな胸が露になると、マルセラは軽く息を詰めた。とっさに手で隠そうとする。
今まで散々、ジークを煽ろうとしていたくせに、こうして脱がされると羞恥心を煽られたのだろう。それに、色っぽい下着姿は見せたけれど、裸体まではさすがに見せなかったのを思い出す。
あまりにも可愛い姿に、口元が緩む。喉を鳴らして笑うと、マルセラがビクリと肩を震わせた。
「今さら怖くなったか? 言っただろ、止めねぇって」
本当はもっと宥めて落ち着かせてやりたいのに、そんな言葉しか出てこない。
華奢な手首を掴んで引き剥がした。両手首を一まとめにして片手で掴み、頭上へ縫い付ける。
自由な右手で、片方の乳房をわし掴んだ。張りのある艶やかな肌の質感と、柔らかな弾力が気持ち良い。先端を指で弄ると、みるみるうちに尖ってきた。
「ふっ……ぅ……」
頬を紅潮させたマルセラが、泣きそうな顔で唇を噛み締めている。
ちゅ、と軽く乳首にキスすると、戒められた腕がもがき、身体を小さく跳ねさせた。そのまま硬くなった乳首に吸い付き、手ですくい上げるように胸全体を愛撫する。頭上でマルセラの息が、どんどん荒くなっていく。
「や……ど……して……違う……」
涙声で訴えられ、口と手を離した。
「何と違うんだ?」
目に涙を浮かべた
「ん……だって、そこ……触られても、いつも、こんな感じしないのに……」
――は? いつも?
思いがけない言葉に、ジークは目を丸くしたが、一瞬後には凶暴な目つきがギリギリつりあがる。
(おいこらぁぁぁぁ!!! 誰だ、その命が要らない奴は!!!!!)
嫉妬を煽られ、つい声が恐ろしいほど低くなった。
「他の男に触らせたこと、あるのかよ」
「え? 女の子だけど……? エレオノーラがよくふざけて……」
まだ目に涙を浮かべたまま、キョトンとした声でマルセラが答える。
「……あいつか」
舌打ちが漏れる。マルセラの友人だというお嬢様は、一度だけ見かけたことがあった。
女友達とじゃれあうくらい、大した意味ではないのだろうが、それでもやっぱり、多少は面白くない気がする。