彼の名はしゅう・・-3
「そうなんだ・・」
夕日が沈んで行く中、彼女達は歩みを続ける
「じゃあ、彼はお姉さんと両親とで4人家族なんだ」
「まぁ、『4人家族だった』って言うのが正しいケド」
樹里奈は少し声のトーンを低くし言う
「・・なんか、あったの?」
「まぁ、ちょっと色々とね・・」
「・・でも今はお母さんと二人で仲良く暮らしてるんでしょ?」
「仲良く・・、まぁアイツからはそう聞いたね『母さんとは仲良くやってる』って」
「まぁ、アイツとは小学校の頃から一緒だったカラ」
「アレ?それじゃあ私、気がつかない内に彼と同じ・・」
「いや、違うよその頃たまたま樹里奈と私がクラスが別々だったから」
「そっか、いちいち彼の事話す必要も無いしね」
「おーーい、いったぞーっ!」
河川敷から声が響く
「おっ、今日もやってますな」
「えっ?」
「斉藤!佐野にパスだ!」
「おうっ!」
サッカーユニフォームに身を包んだ男子達が、練習に励んでいて
そのなかに・・
「あっ・・」
樹里奈は思わず声を挙げ、例の彼が凛々しく部員に指示を出してる光景を目にし
そんな彼に引き寄せられるかのように樹里奈達も河川敷に近寄り
「皆お疲れ様、中々良い動きだったぞ」
「そんな、全然駄目っすよスピードは相変らず遅いし、これじゃ他の人達の足を引っ張ってしまうよ・・
「そんな、大丈夫だよ」
「でも」
「遅くたっていいじゃないか」
「良くないよっ!アレじゃパスも渡せない」
「確かにソコは課題だ、でもその分君は、テクニックがある・・だからソレでテクニック
不足の部員をフォローしてやって、そうやって君の欠点は他の部員が補ってやればいい」
「・・キャプテン」
無邪気な笑顔を向けるしゅう
そして練習が終わり、部員達が次々と帰る支度をし
「はい」
「ん?あぁサンキュー」
タオルとジュースを彼に差し出す樹里奈
「練習、お疲れさんとても素晴らしかったよ」
「そうかな?俺はただ思った事を言ったまでだけど」
「でも良かったよ、部員の悩みとかにしっかり耳を傾けてさぁー」
「そりゃそうだよ、だって彼らは部員であると同時に仲間だもん」
「え?」
「キャプテンである俺が部員達を支えてるように見えるけど実際は違う
俺が部員達に支えられてるんだよ、こんな頼りないキャプテンを」
「そんな、貴方はよくやってるじゃない!あそこまで部員を想うなんてそうそうないよ」
「まぁ、俺は彼らが好きだから、ずっと一緒で居たいと想ってるから」
ドキッ
彼の発言に思わず心が揺れ
「優しいのね・・」
「あはは、よく皆に言われるな」
「だってそうじゃない、今日だって大掃除、進んで色んな人に手を貸してて・・」
「なんだろな、気がついたら頭より先に手が動いてるんだよ『あ、助けなきゃ』って」
「・・しゅう・・君」
「しゅうで良いよ、ところで君、名前は?」
「私?・・私は樹里奈、蓮見 樹里奈」
「樹里奈かぁ、へぇー」
ゴクッ
思わず唾を飲む
「良い・・名前だね」
「えっ?」
パッと顔を上げまん丸とした目で彼を見つめ、頬を赤く染める
「・・ウチ何処?送るよ」
「えっ?そんな良いわよ、ただの見学者ごときに」
「見学者以前に放って置けないよ、こんな暗くなってきたのに一人で帰らせるなんて」
その言葉を放つ目はとても真っ直ぐで、いまさら女の子だからとか、そういう事ではなく
単純に困った人を放っておけない、まさに大掃除の時の彼そのものだ
春華は何を想ったが先に一人で帰っていってしまい
「それでさー、加藤がそのまんまバケツごとこけちゃってさぁー
「あはは、何それー」
「でもまぁ、怪我が無くて良かったよ」
「うん」
暗く寒い夜道を歩く二人、余計な不安させないため、面白い話をして場を和まして
「私は、彼の事が好き・・なのかな?」
ふと心の中で彼を見つめ想うと
「ちょっとあんまん買って来る」
そう言って、近くのコンビ二に向かいその小走りの背中をジーと見つめ
「お待たせー」
わずか数分でコンビに袋を片手に彼が戻ってきて
「はい」
「えっ?」
半分に分けたあんまんを手渡して来て
「いいの?」
「うん、温かいうちにドーゾ」
そのあんまんは温かく、冷え切った手を温めてくれてそれに何よりそのあんまんを持っているだけで心まで温かくなったようで・・
「おいしい?」
「うん、まだ食べてないけど」
「良かった」
暗い夜道なのに何故か太陽が在るかのようにまぶしい彼の笑顔
「寒くない?」
「・・うん、大丈夫・・、ぶぇっくしょんにゃろうーっ!」
思わずデカイくしゃみがし、しまった・・とでも言うように顔を背け
「ホラ」
「えっ?」
しゅうはコートを脱ぎ、それを彼女に差し出す
「着なよ」
「でも」
「知ってた?スポーツしてる人間って体温が比較的高いんだ、だから着な」
どことなく無茶苦茶な言い分だが、彼が私に気を遣わせないという想いがひしひしと伝わって来て、私は無言で彼の言葉に甘え
「どう?寒くない?」
「うん・・」
彼は優しい、私はどうやら彼を好きになってしまったようだ・・
この気持ちに嘘はつけない・・
望むことならずっとこうして彼の横を歩いていたい・・
ダガ、そんな願望はすぐに打ち砕かれ見慣れた家がソコにあり
「ここかぃ?君の家は?」
「うん、皮肉にも」
「えっ?あはは面白いね君」
「いや、私は・・」
「なんか良い匂いするね」
何処からとも無くシチューのような匂いがしてきて
「まぁね、今日はシチューなの、うちのお母さんが『今日。シチューが大安売りなの』
って馬鹿みたいにはしゃいでさー」
「へ、へぇー・・なんかゲンキンなお母さんだね」