異常-2
夏休みと言う事もあり敬人は、平凡な中学生の少年らしく深夜までRPGに興じていた。
そんな弟が姉の「異常」に気付いたのは、佑香が脱衣所で意識を失ってから3時間の後であった。
喉の渇きから自室2階より冷蔵庫のあるキッチンまで降りると、脱衣所の引き戸隙間から僅かに明かりが漏れているのが目に入る。
「姉さん?」
3時間ほど前に姉が部屋より出た感覚は、ゲームに興じていても僅かにあった。
飲み物を手に2階に戻り自室に入る前に、姉の部屋をノックする。
「・・・」
時間も時間だけに返事が無いのは仕方ないが、嫌な胸騒ぎからそっとドアを開け姉の様子を確認する。
慌てて階段を駆け下り、脱衣所の引き戸を開ける。
予感は悪い方に的中してしまう。
発熱から憔悴しているにも関わらず、無理にシャワーを浴び洗髪までした佑香が意識を失い全裸のまま倒れていた。
佑香の体温は失われ状況は非常に悪い状態にあった。
「救急車を呼ばないと・・・」
佑香の顔色からも、それが適切な判断と思われる。
「姉さん、姉さん」
「今、救急車を呼ぶからね」
取りあえずバスタオルで姉の身体を包み、必死に呼びかけてみる。
敬人がリビングの受話器に手を掛けた時に、微かな声で佑香が呼び止める。
「大丈夫だから・・・」
「それに恥ずかしい・・・」
僅かな意識の中で佑香は、敬人の行為を制止する。
佑香が何を言わんとしているのかは、敬人も十分理解は出来ていた。
もちろん敬人も救急隊員に、こんなあられもない姉の姿を見られるのは嫌である。
「そんな事言ったて、このままじゃ・・・」
狼狽える敬人であったが、次の瞬間佑香の心中を察する事になる。
佑香の太腿をつたいひとすじの経血がバスタオルに滲んでいた。
敬人はそれ以上何も言わず佑香を抱きかかえると、階段を上り自室のベットに姉を運んだ。
あえて姉の部屋に運ばなかったのは、姉のベットを汚さない為の敬人なりの配慮であった。
佑香が意識を失い時間が経過していた事もあり、シャワーを浴びた身体や髪はすでにある程度乾いていた。
そしてそれにより体温が失われ、佑香の病状は悪化していた。
更に悪い事も重なり・・・
佑香の気持ちを察し救急車を呼ぶ事を止めた敬人ではあったが、その心中は複雑かつ穏やかでは無かった。
「どうしたらいい?」
自問自答を繰り返す。
大好きで大切な姉が、目に見えて憔悴している。
救急車を呼び他人に姉のこんな姿を見られる事は自分も避けたい。
だからと言って、姉の憔悴状態は明らかである。
「何とかしたい・・・」
抱きかかえた段階で、姉の体温が失われているのが敬人にも十分解っていた。
敬人は以前に読んだ小説の一説を思い出していた。
衣類を脱ぐと、そっと姉を包み込む様に添い寝する。
冷え切った姉の身体を自らの体温で温める・・・
当然、かなり肌を密着させなければ効果は無い。