(後編)-7
小包の箱の中に手をいれる。滑らかな手触りをした絹のスリップ、微かな湿り気を帯びたブラ
ジャーとショーツ…。つい先ほどまで彼女が身に着けていたもののように、私はその下着から
女の肌の仄かなぬくもりを感じ取ろうとしていた。
私は彼女のふくよかな乳房を想い描きながらブラジャーに鼻をあて、乳汁の甘い匂いを胸いっ
ぱい吸い込む。甘酸っぱい匂いが鼻腔に広がり、私の中を甘美にくすぐる。そして細やかな
刺繍が織り込まれたショーツに唇をよせる。
微かな染みの痕がなぜか微笑ましく感じる。私はショーツの染みの痕を舌でなぞりながら彼女
の蒼白い恥丘を想い描く。そのとき、まるで太陽の光で照らし出されたような欲情の疼きが、
かさかさと体の芯で戯れ、ペニスの肉芯に瑞々しい血流を注ぎ込んでくるようだった。
妻の下着の匂いさえ嗅いだことのない私だったが、あの女の下着というものがこんなにも自分
の中を懐かしく潤してくれることが不思議だった。
ゆっくりと瞳を閉じた私の瞼の底に、曼珠沙華の花に包まれた「谷 舞子」という女と妻の
影が重なり合い、寂寞とした闇のなかに淡い灯りの幻影となって見え隠れする。
抱きしめたいほど愛おしいその灯りは、虚ろな沈黙と切なさを漂わせ、やがて水に溶かした
水彩絵具のように私の瞼の裏に薄く滲み、目の中を潤ませながら陽炎のように消えていった…。