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曼珠沙華
【SM 官能小説】

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(後編)-8

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エピローグ



…「谷 舞子」様へ

…見知らぬ老人からこんな手紙をもらって、きっとあなたは戸惑っていることだと思います。
あなたは憶えているかどうかわかりませんが、あなたと初めて会ったのは曼珠沙華が咲き乱れ
たあの公園でした。私は黄昏の公園のベンチであなたの隣に座り、あなたの名前が「谷 舞子」
であることを知りました。思い出していただいたでしょうか…。

そして二度目に会ったのが、あの旅館でした。もちろんあなたはずっと眠り続けていたから
知らないはずです。驚いたことにあなたは縛られた裸体のすべてを私の前に晒していました。

でも、恥ずかしがらないでください…。私は、ああいう形でふたたびあなたに会えたことが
とてもうれしかった。その理由にあなたはすでに気がついていることだと思います。

そうです…あなたは死んだ私の妻と瓜二つの顔をしていたのですから…。

あなたと会ってからというもの私は不思議な欲情を抱くようになりました。妻が亡くなってか
ら二十年ほどもたつというのに、あなたのからだに触れることで、私はまるで妻の心とからだ
と深く交わっているような気がしました。

私はあの旅館で縛られたあなたの裸体を見たとき、死んだ妻がほんとうに生き返ったのだと
自分の目を疑いました。微かな息をして眠っているあなたを目の前にして、死んだはずの妻が
ふたたび私を求めている…ほんとうにそう思っていたのです。
私はあなたと一夜を明かしたあの日から、あなたとの…いや、妻となしえなかった情交の夢を
みるようになったのです。

私は妻と結婚した直後、ある事故によって性的な障害を持ちました。性的に不能の私が生前の
妻をけっして充たしてあげられなかったというのに、夢の中にあなたという女性を思い描いた
ときから、私は絶え果てたと思っていた精をふたたび取り戻したのです。それがあなたという
女性の肌に触れ、匂いを嗅ぎ、滲み出たあなたの蜜汁を啜ったことによるものだったのは間違
いなかったのです。

私は妻を愛していました。それなのにこの世で愛したたった一人の妻を私は自らの手によって
絞め殺したのです。そして殺人の罪によって私は五年間を刑務所ですごしました。
私が妻を殺しても殺さなくても、妻は不治の病に侵され、あと数か月の命でした。そんな妻を
私はどうして首を絞めて死へ導いたのか…いや、それは妻が私に求めたことだったのです。
妻が私との絆を求めて人生の最後に私に望んだことなのです。私は今でもそう思っています。


老いすぎた私はあとどれくらい生きることができるのかわかりません。私は神も仏も信じては
いませんが、いつのときも死ぬのが怖いわけではありません。恐れているのは、生きることの
意味を失うこと…そして、永遠という言葉に見放されることでした。


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