尾行2-1
石橋は田倉を追い続けたが、しっぽをつかむことができない。というのは尾行を巻かれてしまうからだ。車で細い路地をくねくねと走ったり、広い道に出ると突然、端に寄り停車する。ヘタに尾行すれば間違いなく見つかってしまう。
また、徒歩での追跡のとき、路地に入ったと思ったら、急にそこから出てきたことがあった。少々近づきすぎたな、と思った矢先だった。慌てて顔を伏せ、人混みに紛れ込むことができたが、心臓が竦み上がった。田倉は警戒しながら行動しているのかもしれない。
田倉が無理なので奈津子を。佐伯の妻と分かっていても――分かってからなお――進藤奈津子に恋い焦がれた、あの学生時代に戻ってしまったかのように切なかった。
奈津子が不倫などしているわけがない、と思っているので本当は尾行などしたくないのだ。だが、奈津子を追っている状況を想像すると、にわかに狂おしいまでの性欲が沸き上がってくる。従って、不倫などする女性ではないと思う一方、不倫をしている奈津子を見てみたい衝動に駆られるのだ。
その、狂おしいまでの性欲を解消する方法を石橋は考えた。いろいろ思いついたが――こんなに思いついていいのか、と思えるくらい思いついたが――最終的に、奈津子に見立てたダッチワイフで自慰行為に励む以外にない、という結論に達した。そう考えると、もう、いてもたってもいられない。
一旦、追跡をやめ、顔や体型が似ているものを、それは必死になって探した。できるだけ精巧に作られたものが欲しい。ホームページを見、店舗を構えるアダルトグッズのショップを回った。果たして石橋は探し当てたのである。
顔はなんとなく似ているが体型があまり似ていないものと、顔は似ていないが全身が白く作られていて、体型が似ているものが最終的に残った。多分に思い込みが含まれていることは言うまでもない。
石橋は販売元に電話をかけて、何とか改造できないのかと交渉したのである。その辺は常人の神経とはできが違う。もちろんそんなことは無理で、顔の似ているダッチワイフに未練があったが、『人妻風』と称した後者を購入した。電話を受けた人に、頭だけ売ってくれと食い下がったが、これも無理だった。
後日、他メーカーで頭部を交換できるものがあることを知り地団駄を踏んだのであった。財布の中身と相談して、そっちを買うことも真剣に検討している。
かくして石橋はそれを『進藤さん』と名付けた。
鼻で笑い飛ばしていたあの佐伯が、若い頃の奈津子を数え切れないほど抱いたであろうことを考えると、悲しくも興奮し、田倉と奈津子が抱き合っている姿を想像し、布団の中で狂ったように『進藤さん』と睦み合うのであった。
家に帰るのが楽しみになった。毎夜ひたすら奈津子を想い、『進藤さん』を使用した。終わった後は時間をかけて、それは丁寧に洗う。洗面台の前で背を丸め、石けんをまぶした指で洗っているときが、石橋はことのほか哀愁を感じた。
ともあれ、綺麗になった『進藤さん』が毎日家で待っているので、金を出して女を買うこともなくなり、果たして女には不自由はしていない――ということに相成った。