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異種間交際フィロソフィア
【ファンタジー 官能小説】

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凶暴回帰の満月夜-4


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 大都市の濁った夜空でさえも、一年で最大に輝く満月の魔力は、ギルベルトの体内を耐えがたく疼かせる。カーテンと鎧戸はぴったり閉めているが、ほんの気休めだ。
 ソファーの上でうずくまり、ギルベルトは変身衝動に耐えていた。少しでも気を抜けばあっというまに狼へ変化してしまいそうだ。

 真暗な部屋の中で、琥珀色の両眼は金色の光を帯びて、らんらんとギラついている。
 狼の血脈が全身を激しく駆け巡っている。四足で大地を踏みしめ、思い切り駆け回りたくて仕方ない。
 満月に向けて思い切り咆哮できれば、どれほど気持ち良いだろうか。

 いつもなら、この夜くらいは誘惑に負け、深夜に人通りの少ない場所を選んで走り回っていた。
 しかし、人々がドラゴン騒動をひとまず忘れたとはいえ、まだそう時間が経っていない。うっかり誰かに見られでもしたら、また騒ぎに火がつくだろう。

 伸びそうな牙を押さえ身じろぎした時、鎧戸を突っつくような、かすかな物音に気づいた。
 慎重にカーテンと鎧戸を細く開けると、白い物体がヒラリと部屋に飛び込む。
 紙で折られた鳥は、部屋の中を一度旋回し、ギルベルトの前を飛び回り始めた。

「式紙?」

 珍しいものに首を傾げた。
 数年前に発売された子供向けの魔法玩具で、大陸東で独特に発達した、呪符を使用する式神魔法を、簡略化したものだ。
 鳥やサルに小鬼など、最初から折られた呪符セットで、この鳥形なら数キロ圏内の距離に、ごく簡単な伝言を届けられる。
 簡易的な命を吹き込まれた紙の魔物たちは一度しか使えず、それほどの威力もないが、価格も手ごろで、即座に大人気となった。
 しかしこの玩具は、すぐ発売中止とされたはずだった。

 鳥の飛んだ後から、空中に白い文字が浮かび上がる。

 『人狼、お前と戦ってみたいんだよ。俺に勝てれば、お前の秘密は誰にも知られずに済むぜ。誰にも言わず、一人で記念公園の結界広場まで来い』

 全ての文を出し終えると、役目を終えた鳥は、ただの紙切れに戻って床に落ち、文字も程なく消えた。

「……っ!」

 ギルベルトは式紙鳥を拾い上げ、中身を開いた。
 内側の宛先欄に、ここの住所が書かれ、受け取り人の写真を貼る部分には、ギルベルトの顔部分を切り抜いた写真が、ちゃんと張付けられていた。
 自分の写真など滅多にとらないから、首もとのネクタイで、ウリセスが会社で撮ってくれたものだと、すぐわかる。
 だが、ギルベルトを硬直させたのは、折り目から零れ落ちた長い数本の髪だった。見慣れた美しい亜麻色と、まぎれもないエメリナの香りに、両眼が大きく見開かれる。
 紙の鳥をグシャリと握りつぶした。

 この式紙鳥は、内側に書かれた相手本人しか開封できず、他の人が開ければ消えてしまう。
 差出人の名前を書く必要はなく、もちろん通話記録も消印も残らない。
 そこを突かれ、いじめや脅迫状などの用途に、たちまち悪用されたので、即発売中止になったのだ。


「エメリナ……」

 喉奥で唸り、即座に家を飛び出す。

 脅迫状の最後は、典型的すぎる文章だけに、かえって多弁されなくても、他言したり断れば人質がどうなるかを伝えていた。
 狼になって駆ければ数倍早いが、記念公園までの道は人通りが激しく、誰にも見られずたどりつくのは不可能だ。

 頭に血が昇り、輝く満月が変身しろと強烈に促すのも、気にならないほどだった。
 曲がりくねった石畳の夜道を、信じられないほどの速さで駆け抜けるギルベルトに、すれ違う何人かが驚いて振り返った。
 構わず駆け続け、人工の灯りが煌々と輝く賑やかな駅前を通りぬける。



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