時代錯誤の好戦者-2
「―――っ!!」
声もなく青ざめたエメリナを見下ろし、勝ち誇ったようにジークは携帯端末を放り寄越した。
「返してやるよ」
エメリナの顔のすぐそばへ、端末がポフンと沈む。
「いやはや。お前、正直だなぁ、すぐ顔に出やがる」
くっくと喉を鳴らして笑い、ジークはエメリナの顎を軽く掴んだ。
「ゲーム大会で見かけたのは偶然だがよ、あの最終戦はたぎったぜ。
それに、ドラゴンとショベルカーで戦ったのもお前だろ?」
「……」
エメリナは答えず、震えながら顔を背けようとしたが、顎を掴む手がそれを阻んだ。
睨み付けるエメリナに、ギラギラと瞳を凶暴に輝かせたジークの顔が、吐息がかかりそうなほど近づく。
「惚れたりしないがな、外見ばっかで甘ったれた腑抜け女よりは、断然マシだ。
大人しく協力してくれりゃ、お前は見逃してやるさ」
「嫌」
エメリナは、きっぱりと一言で返した。ジークが片方の眉を吊り上げる。
「何に協力しろってかも、まだ言ってないだろ」
「こんな乱暴するような相手には、どんな協力だってお断りよ」
殴られるくらいは覚悟したが、ジークは溜め息をついて肩をすくめた。
「手荒な真似したのは悪かったけどよ、先に悪どいことしたのはそっちだぜ」
「私が?」
身に覚えがない非難に、エメリナは憤然と抗議した。だが、ジークは指おりして数え始める。
「まず、魔獣の違法所持だろ?ショベルカーの破損に、事件現場からの逃走。ドラゴン事件の捜査妨害……。
それからお前、どうやったかは知らないが、上層部にも手ぇ回しただろ?
捜査を打ち切られて、うちの隊長は茹クマみたいになって怒り狂ってたんだぞ」
どうだ!と指先を突きつけられ、エメリナは顔を引きつらせる。
確かにジークの言ったことは、まるきり嘘や言いがかりではない。
こういう表現をされれば、エメリナのほうが、確かにとんでもない極悪人だ。
「わ、私にも、言い分があるんだけど……痛っ!」
身体を捩り、顔をしかめた。きつく戒められた手首から先が、感覚を失いかけている。
「手……血が止まりそう」
訴えると、意外な事にジークは手足の戒めを解いてくれた。
「ここでお前がちょっと暴れたところで、俺が絶対勝てるからな」
自身満々のセリフだが、紛れもない真実だと感じた。ジークは扉を塞ぐような位置に立っているが、猛獣のような鋭い眼光には、微塵の隙もない。
エメリナはベッドの上に座り込んだまま、手足をさする。部屋の反対側には窓もあるが、そこに行くまでに掴まるだろう。
放り投げられていた端末を取り、中身を素早くチェックした。
最重要機密ファイルのロックが解除されているのを見て、血の気が引く。
「……もしかして、写真の他にも勝手に見たの?」
「ああ。でなきゃ、お前のことを調べられなかっただろ。知り合いに、パスワード解除とか得意な奴がいるんだよ」
端末のデータ内容を思い出したのか、ジークは身体を震わせて笑う。
「くっ……はは!!なんだよ、『本日のギルベルト先生萌え』って!」
「――っ!!」
秘密の日記を読まれ、エメリナの耳の先や首筋まで真っ赤になった。布団を引っかぶっり、端末を抱えて亀のように丸まった。
「ぜ、ぜ、絶対許さないっ!!最悪っ!!鬼畜男っ!!」
布団の下から、くぐもった罵声を浴びせる。
身体はともかく、心は十二分に陵辱された。
羞恥度合いでは、素っ裸にひん剥かれたほうが、まだマシかもしれない。