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THANK YOU !! ver. distance love
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-3



エンディの言う通り、拓斗に今回の事態を話していなかった。
無論、理由は言うまでもなく、自分の情けないところを見られたくないからだ。
だが、メンバーを外された日の夜に偶然的に電話があった。


*****


「・・拓斗?」

メンバーを外された後、瑞稀は家に戻ってきていた。どうしても練習する気にもなれず、早退してベッドで休んでいた時、ケータイが震えた。画面を開くと、そこには今一番話したくない人の名前が出ていた。
どうしようかと躊躇ったが、電話に出なかったあとの言い訳が思いつかず、仕方なしに出た。余裕のある時なら、小学生のようにマンガから引用出来るものだが。

『・・瑞稀?どうした?』(『』は電話口を表す)
「・・・え、どうしたって・・?」

思った以上の優しい声に、瑞稀は泣きそうになる。

『いや、いつもより元気無いみたいだから・・、何かあったのか?』
「・・・・・・」

声を聞いただけで分かってしまうのか。
そんな恋人に、嬉しく思う反面、そんなに態度に出てしまうことが悔しくて、情けないところを見せたくなくて。

「・・ううん、何でもない。自主練に時間取りすぎて疲れてるんだと思う」

そう、答えてしまった。
勿論これだって嘘じゃない。実際、時間を練習に当てすぎて身体の体調不良の悪化が見受けられる。

『本当に、それだけか?』
「・・・え?」
『本当に体調不良だけが原因なのか?』
「・・・・・」

珍しく、拓斗が瑞稀の様子を深く聞き込んだ。こんなことはあまり無かった。
瑞稀は気づいていないが、瑞稀はいつもかわした後に拓斗に話題を振る癖があるのだ。でも、今はそれをしていない。いつもと違う声、いつもと違うやり取り。その二つだけで、瑞稀の状態に気付ける拓斗だからこそ、ここは食い下がるのだろう。
余裕がないことを気づいてくれる嬉しさもありながら、やはり情けないところを見せたくないという想いがあるし、何より負担をかけたくないのだ。
だから。

「うん、それだけ。大丈夫だよ」
『・・・・瑞稀・・』

拓斗の声のトーンが下がったのが、分かった。
でも、それでも譲れなかった。拓斗に負担をかけないためにも、情けない姿を見せない為にも。

「それより、大会2位入賞おめでとう!言いそびれちゃってゴメンね!」
『・・・あぁ・・惜しかったんだけどな』

これ以上聞いても、同じ答えしか返って来ないと思ったか、拓斗もさらに聞いては来なかった。瑞稀の話題に、乗っかる形で話を強制的に終わらせた。


が、拓斗もこの電話でようやく気付いた。瑞稀が何も自分に話してくれていないことに。
拓斗の心の中に、疑念が強く根付いた。


*****


そうとも知らない瑞稀は、なんとかごまかせたという気分でいた。
あれから、空いている時間を練習に当てているために電話どころかメールのやり取りもしていないので、拓斗の様子がどうなっているか気にはなっているが連絡を取るまでの余裕が無かった。
なにぶん、部屋に帰っても軽く睡眠を取る為にしか使っていないし、それ以外は自主練用に使用している部屋に篭りきりなのだ。
ケータイを見ている時間さえも、練習に費やしていた。

『・・・とりあえず、本人たちの問題だからあまり言いたくないけど・・少しは彼氏を頼りなさいよ』(ここから『』は英語を表す)
『・・うん、ありがとう』

軽く微笑んで、瑞稀はレモンティーを受け取って部屋に入った。
ドアが閉められて廊下に一人取り残されたエンディは誰にも聞かれない呟きを漏らした。

『・・・絶対、頼るって意味を分かってないわね・・あの子』



部屋に戻った瑞稀は早速差し入れされたレモンティーを飲んでいた。

「うん、美味しい。」

苛立っていた気持ちが落ち着いていくのが分かった。
それと同時に襲ってくる身体のだるさ。妙な浮遊感。
嫌な予感がして、とにかく身体を休めようとして椅子に座ろうと机に手をついた瞬間、身体から力が抜けたのを感じた。

「・・・っ」

そのまま重力に逆らえず、身体が床に叩きつけられた。
身体の鈍痛で、頭がぼうっとしてくる。意識を失う直前、誰かの苦痛に歪んだ顔が思い出された。

「・・・だ、れ・・・」

それが誰か、思い出す前に瑞稀の意識がぷつんと糸が切れたように遮断された・・。



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