初―うぶ―-4
若々しく発達した脚の表皮に、いつしか島袋の下品な鼻息がかかっていた。
それに気がつかない紗耶香ではなかったが、おそらく自分が意識しすぎるのがいけないのだろうと、間違った考えをすぐに訂正する。
自治会長さんはそんな人じゃない──。
目の前のことにだけ集中して、紗耶香は何の得にもならない被害妄想を払拭した。
「痛いっ!」
不意に島袋が声を漏らした。あわてたのは紗耶香のほうである。
作業を中断して下を向くと、苦痛を訴える島袋の姿があった。
紗耶香は踏み台に乗ったままその場にしゃがんで、島袋に対して癒やしの態度を見せる。
「腕が痛みますか?」
泣く子をなだめるように島袋の顔をのぞき込んでは、その背中をさすって言葉をかけつづける。
「病院へ行きますか?」
紗耶香の手のぬくもりを感じた島袋は、偶然を装って、眼前に迫るその色っぽい脚に手を添えた。
「どうってことはない」
「そんなふうには見えませんけど」
「ほんとうに大丈夫だよ」
こんなに上手くいくとは思わなかったと、島袋は腹の中で笑いをこらえていた。
人妻の脚の感触はとにかく絶品であり、自分が仕掛けたハプニングとはいえ、しゃがんだ姿勢でいる紗耶香のスカートの奥に、きわどい皺をつくった白い布地がよく見える。
奥さんのいやらしい下着が、この目に食い込んでくるようだ──。
そこからむんむんと漂ってくる体臭を嗅ぐあいだに、眠っていた生殖器がいきおいよく首を持ち上げていく。
島袋が痛がっていたのはじつは腕ではなく、こっちが本命だった。
スラックスのファスナーをこじ開けんばかりに、意思を持った局部はどんどん膨張していく。
理性ではどうにもならない生理反応が、島袋の企てた本来の目的を物語っていた。
この家には誰も来やしない。悪いのは、役員会議なんて口実を疑わなかった奥さんのほうだよ──。
茂みの中に目を凝らすハンターのごとく、島袋の表情がしだいに鋭利なものへと変化して、汗と欲望でぎらぎらと潤んでいく。
「薬箱の中に、新しい包帯と湿布が入っている」
それを持ってきて欲しいと島袋は言った。度重なるわがままにも嫌な顔一つ見せずに、紗耶香は島袋のために身を尽くす。
言われたものはすぐに見つかった。
「何から何まで、奥さん一人にやらせてしまっているね」
「いいえ、こんなことぐらいしかできませんから」
この場面ではまだ得意げな笑みをたたえていた紗耶香だったが、薬箱を開けた直後には、その白い頬が初(うぶ)なピンク色に染まった。
「どうしました?」
もてあそぶような口調で島袋は訊いた。紗耶香は返答に困った。