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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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上司-8

 デスクの上の電話が鳴った。
「はい、おつなぎください」
 受話器を取った下村沙也加は内線電話に向かって答えている。
「いいえ迷惑だなんて、そんなことはごさいません。ただいま本人と変わりますので少々お待ちください」
 沙也加は受話器に向かって明るい口調で言った。
「部長お電話です」
 取り次ぐときは必ず相手の名を告げるのだが、なぜか沙也加はそうしなかった。従って田倉は「誰?」といぶかる声でそう聞いた。
「憧れの君です」
 田倉は「えっ」と絶句したあと赤面し、三回も咳払いをしてから背筋を伸ばして受話器を取った。その慌てぶりに沙也加はクスクスと笑った。
「はい、田倉です」
『お仕事中大変申し訳ございません、わたくし、佐伯の家内でございます。その節は大変失礼いたしました』
 囁くような奈津子の声が聞こえ、背筋がゾクッとした。受話器からの声は妙に艶がある。思わず生唾を飲み込んだ。
「いいえ、こちらこそ」
 動揺を悟られないよう、ビジネスライクに返事を返す。カタカタとキーボードを鳴らしながら沙也加がほほえんでいる。必死で平静を装っている姿が滑稽に見えるのだろう。
『お詫びをかねてお会いしたいのですが……』
 口から心臓が出たのではないかと思えるほどドキリとした。沙也加の予言が的中した。
『あの、今日はいかがでしょうか?』
 奈津子の申し訳なさそうな声が聞こえた。
「ええ、それは結構ですが、お詫びなど必要ありませんよ。本当にお気遣いなく……」
 沙也加を見ると、サラサラの髪を乱しながら激しく首を振り、人差し指でデスクを叩き、口が「ここ、ここ」と言っていた。
 勘のいい田倉は直ぐに反応した。
「もしかしたら今、近くにおられるのですね」
『ええ……あの、主人には……。本当にお忙しい中、ご無理り言って申し訳ございません』
 夫のことを気遣う奈津子の声は消え入りそうだった。電話の前で頭を下げる姿を思い浮かべ目を瞑った。
 夫には内緒という秘密めいた電話に体がカッと熱くなった。
「いいえ、そんなことはありません。ビルの裏に××という喫茶店があります。そこでお待ちください。直ぐに参ります」
 受話器を置いた田倉はフーッと息をはいた。
 沙也加の頭の回転の早さに舌を巻いた。まるで電話の声が聞こえているかのようである。沙也加がいなかったら目の前まで来てくれた奈津子を帰してしまうような大失態を演じてしまうところであった。田倉は心底胸を撫で下ろした。礼を言うと沙也加は小さく頭を下げた。
 額には汗が浮かんでいた。厳しいクレームの電話でさえ見せたことはない。よほど緊張していたのだろう。
「よく分かったね。ここに来ているって」
「なんとなくです」
 そして女の感です、と言って目を伏せた。
「すまない。ありがとう。じゃ、行ってくる」
「会議の時間には遅れないでください」
「分かっている」と言って急いで部屋を出た。


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