週末デートの締めくくり-3
ゆっくり歩き、どこに行くのかと思ったら、ついた先はギルベルトの家だった。
傷ついた足を洗い、フロッケンベルク産の軟膏を塗ってもらうと、嘘のように痛みがひいていく。
「お世話をかけました……」
居間のソファーに座り、足の薬を乾かしながら、エメリナはうな垂れた。
今日はどう見ても、間抜けな失敗が多すぎる。
「いや、エメリナくんの色んな顔を見れたし、楽しかった」
薬箱を片付け、ギルベルトが隣に座る。
ふと顎に手をかけられ、横を向かされた。
次の瞬間、唇が軽くあわさる。
「先々週を反省しているから、今日は健全に過ごすつもりだったんだが……」
愉快でたまらないというように、ギルベルトがエメリナのバッグを見た。
「期待されてるなら、無理に我慢することもないか。持ってきた薬は男用と女用の、どっちだ?」
「わわっ!!あ、あれは、聞かなかったことにって……!!」
あたふたと両手を振り回したら、あっさり抱き締められて、耳元で囁かれた。
「ん?約束した覚えはないけどなぁ?」
「なっ!せ、先生、いじわる!!」
「俺も所詮、男ですから」
琥珀色の瞳が、愛しくてたまらないものを見るように細められる。
途端にエメリナの体温があがり、心臓がバクバクと激しく鼓動した。緊張で気絶しそうになりながら、たどたどしく答える。
「私が飲む用です。男の人用の薬、ものすごく不味かったし……」
それに、考えただけでまた羞恥に悶えたくなるが、他にもちゃんと用意してきた。
ああ、いかがわしくて、恥ずかしい。
穴でも掘って隠れたい。
それでも、そのいかがわしくて恥ずかしい事を、ギルベルトとだったらしたいのだ。
ひとまず風呂を借り、汗や広場でついた土埃を落とすことにした。
古い浴槽に魔法で適温の湯を溜めるのは難しかったから、ギルベルトがやってくれた。
(あ〜、たまには魔法もちゃんと練習しなきゃ……)
心地良い湯につかり、ぼんやりと考える。
魔法は日常の端々で、今でも使われているし、環境に優しいエネルギーとして最近は見直されつつあるが、中世ほど重要視はされなくなった。
誰でも使えるわけではないから、一般の学校では教えない。
本格的に学ぶには、専門の学校に入るしかないが、よほど才能がなければ入学できないのだ。
それに魔法を使うのは、慣れないと結構疲れるし、うまく行かない時もけっこうある。
魔法より電気製品が、世界中に広まった理由は、誰でも安定して使えるからだ。
(……水曜日、御祖母ちゃんに会ったら、魔法のコツを聞いてみよう)
エルフの祖母は、あの年代の女性には珍しく、魔法大学の卒業生だ。
外見コンプレックスを抱いてからは、大好きな祖母に会うのさえ苦痛だったが、すっきりした今なら、もう大丈夫。
来週の誕生日が待ち遠しい。