山だし-8
土曜日の訪問が習慣化するようになってから肌を合わせることが最優先になっていった。サトエが泊まることを拒んだのである。そうなると時間も限られてくる。若さ漲る性欲がとめどなくサトエに向けられていった。
セックスが終わるとサトエはけだるそうに起き上がって、
「電車のあるうちに帰って……」
急かすように促した。
「泊まりたいよ。だめ?」
「帰ったほうがいいわ」
「家なら平気だよ。子供じゃないんだから」
泊まったのは最初の夜だけである。
「みんな友達だって、けっこう外泊してるよ」
「わかってるけど、あたし、心が痛むのよ。ご両親は何も知らないんだから」
「男と女だ。そういうもんだろう?」
言ってから赤面した。
「そこまで考えるほど親は気にしてないよ」
サトエは困ったように笑って、
「じゃあ、月に一回とか」
「だめ、せめて二回」
「一回」
やり取りが続いて、二人で笑い、結局サトエが折れた。
「迷惑?」
「ううん。そうじゃない」
即座に否定した。
「迷惑じゃない……」
「じゃ、今夜は泊っていくよ」
「今夜は帰って」
「ちゃんと電話するよ」
「嘘言うにしても前もって言ってきて。あたしも気持ちをちゃんとしておくから」
次の週に行くと新しい布団がひと組、部屋の隅に積んであった。
「安物だけど……」
私たちは二組の広くなった布団の上で戯れた。いままでと同じことをしているのに愛撫の範囲が広がった気がした。あちこちを舐め合い、何度も口づけを交わして微笑み合った。
「見せて……」
性器には尽きない興味があった。
「きれいだね……」
初めて見た時は奇怪な部位としか思えなかったのに、次第にサトエの体の変化が如実に表れるもう一つの顔のように感じられて私の関心は日に日に高まっていった。
鼻をくっつけるように覗きこむ私をサトエは頭をもたげながら、
「そんなに見ちゃ恥ずかしいよ」
恥ずかしいのは本音だったのだろうが。私を見つめる目は慈愛に満ちたやさしさがあった。
「そこ、好き?」
「うん……」
「あたしのそこだけ好き?」
「ちがうよ、全部好きだ」
サトエは微笑む。
「里見くん。あたしなんかと、後悔してない?」
「また言う。してないよ」
「いまさらしょうがないもんね。いずれ可愛い純情な子、見つければいいよね」
「なんでそういうこと言うんだよ」
憤慨して言うとサトエは私に取りすがった。
「わかったわかった。ごめん」
サトエは私の顔を舐めるように何度もキスをした。
私が胸の奥に苦しさを感じたのは、彼女が自らの立場を一歩も二歩も引いていると思われる時である。私を立てている、という謙虚さとは異なる違和感があった。
自分は泡沫の恋の相手、若い男のセックスのはけ口。……それでもいいし、それでなければ自分と付き合うことなどない。……
溶け合うほどにのめり込みながらもどこかに無言の節度をひそめている。そう思えてならない時があった。初めから自分の居場所を決めていたのだろうか。……そんな醒めたものが感じられることがあった。
だからこそ苦しかった。自分も彼女を抱きながら、一生をともにしようとは思っていない。愛していると言葉にしながら、気持ちの裏では肉欲と切り離しては考えられない存在なのであった。
セックスの対象としてのサトエ……。さらに厄介なのは、一方でサトエから心の安息を得ているという事実である。一緒にいると気持ちが安らぐ。そんな葛藤に苛まれる夜もあった。