Purple memory-1
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“ビサイド島"空港―――
―――ガヤガヤガヤ・・・
―――ザワ・・・ザワ・・・
男が空港ロビーに足を踏み入れた時、
あたりは閑散としており、人影もまばらな状態だった。
常夏のビサイド島を満喫しに来る観光客でごった返しているのがいつもの光景なのだが、今日に限ってはそうでもないらしい。
そんな感慨を一瞬頭の片隅によぎらせたものの、次の瞬間には男は空港エントランスに向かって歩を進めていた。
肩口までの長さの黒髪が波打った状態で逆立ち、
唇の周りと顎には無精髭を通り越した長さで黒々とした髭を形作っていた。
常夏の島に対応する為か、白い半袖シャツとジーンズにブーツという出で立ちだが、
汗ばんだシャツがその下にある彼の引き締まった胸元の肉の隆起具合と、
はっきりと刻まれた爪痕のような黒い入れ墨を浮かび上がらせている。
左肩には長細い形状のものを包んでいるリュックを軽々とかけ、左手には滞在に必要な日用品を収納してある、
一見どこにでもありそうなハンドバックを握っている。
一見気だるそうな表情を浮かべつつも、鋭い眼光と全身から醸し出す独特の空気が、周囲の人間からは明らかに浮かび上がった状態に彼を位置付けていた。
―――外に出ると、島特有の潮風・・・いや熱風がモワッと男の全身を包み込む。
男にとって2年ぶりにビサイド島の土を踏んだことになる。
もっとも男にしてみれば、空港内といい周囲の光景といい、変わらない光景なのだが。
「・・・・・・」
ゆっくりと男の目線が動く。
その先にあるのは、道路際に列をなしているタクシーの群れ。
無言のまま近づいていき、先頭の車両に声をかけ素早く後部座席に滑り込んだ。
「お客さん、どちらまで?」
「ここへやってくれ」
バックミラー越しに行き先を聞いてくる運転手に一枚のメモを手渡す。
運転手はメモに記された住所を2度3度確認し、
そのまま無言でハンドルを半回転させ車を発進させた。