Purple memory-20
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―――ワッカ夫婦の自宅
物思いに耽りつつ、タクシーに揺られ揺られて漸くジェクトは“目的地”に到着した。
大分前から待ちかねていたのか、家の前に車が停まってからすぐに玄関が開いてワッカが飛び出してくる。
料金を受け取ったタクシーが走り去っていくのを背後で感じつつ、
ジェクトは久しぶりに顔を合わせる後輩と固い握手を交わしていた。
電話口での声の気配から何となく想像はしていたものの、
目の前に立っている大柄の後輩の顔色は予想以上に青白く憔悴しきっていた。
ジェクトは多くを語ることなく、ワッカに案内されて家の中に招じられた。
ジェクト自身この家に足を踏み入れるのは初めてのことだった。
それは彼自身“あの夜の出来事”からルールーと対面で逢うことがなく、
また意図的に“結婚式”にも出席せずに島を離れてしまったせいでもあった――――
―――机を挟んで正面のワッカと正対する形でソファに腰を沈めながら、ジェクトは無意識に室内を見渡していた。
どこにでもありそうな平凡な“一般家庭の居間”そのままである。
女物の装飾や置物があちこちに見受けられるが、
これらも全てルールーの趣味なのだろう。
そう言えば室内に微かに漂う“ラベンダーの香り”も、
どこかルールー自身を連想させる“甘い大人の香り”のように思えてならなかった。
「・・・・・ん?」
ここで初めてジェクトは、自分の正面にいるワッカの背後にあるものの存在に気づいた。
それはワッカの背後にある3段の本棚最下段に作られたスペースに、
まるで目につかないように置かれている写真だった。
写っているのは2人。
それがワッカとルールーであることはすぐに分かった。