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『graduation』
【青春 恋愛小説】

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『graduation〜ウェディング〜』-4

「だってちょうど一緒に抜けようと思ったら正直に言うのが一番じゃない。私、待たされるの大嫌いだし。それより何よ。『同期なんです』なんて言い訳がましい。だったら何で先月言わないのか、って明日突っ込まれるわよ。」

雪見に痛いところをつかれ、グゥの音もでない。

店員が俺の前に一ノ蔵を、雪見の前にシャンディーガフを置いて行く。
俺達は徐にそれを交換すると顔を見合わせて笑った。
これは5年前からの俺達の儀式のようなもの。一杯目はかならず一ノ蔵とシャンディーガフ。そして店員が間違えて置いて行くのを「馬鹿だなぁ」と言いながら交換する。

「変ってないな、雪見は。」

「いえいえ変りましたよ。『ゼロ』で浮いてるもん私。確実にババァになったのよ。」

そんなことを言いながら頬を膨らませる仕草はやはり昔のままで、俺は顔をほころばせた。

「ごめんな。無理に誘って。サークルの人間とは関わりたくなかったんだろ。何か嫌なことがあったって?ごめん。俺、全く気付けなかった。」

さっさと気になっていたことを言ってしまう。駆け引きとか、そういうことは俺にはできないから。

「・・・相変わらずなのは佐伯だよ。」

雪見は少し驚いてから苦笑した。

「何があったか聞いていい?」

単刀直入に尋ねると

「そういう話は、もうちょっと杯を重ねてから徐に持ち出すのが定石でしょ。これだから学生はダメなのよ。」

一ノ蔵を啜りながら相変わらずの辛口。少々めげそうになる。
それに気付いたのか雪見は慌てたようにフォローにまわった。

「でも、就職決まったんだって?すごいじゃない。さっき佐伯が研究室に入ってくる前、二階堂教授がおっしゃっていたわよ。これで安心して棺桶に入れるって。」

あのクソオヤジ。何が棺桶じゃ。グラビアアイドルのポスター見て、全部名前言えるくせに。
そんな突っ込みは胸に秘め、

「そう。でも、地方の大学。来年の3月には広島県ですよ。」

淡々と会話を進めた。

「そっかぁ」

雪見は少し寂しそうに笑った。もう一ノ蔵は空になっている。事務的に今度は魔王を頼むと「地方はつらいよね」と呟いた。

「そうでもないみたいだぜ。ってか人によるんじゃん?ほら、ツヅキ、サークルの都築一。あいつ去年まで福岡勤務だったんだけど楽しそうだったよ。釣りとかハマっちゃってさぁ。東京帰って来る時、名残惜しそうにしてたもん。」

俺は陽気に親友の話をしてから、ハタと気付いた。
ツヅキもサークルの人間だ。ひょっとしたら、彼女のサークルでの嫌な思い出に繋がっているかもしれない。

「都築かぁ・・・懐かしい名前。今でも連絡取り合ってるんだ?」

雪見の普通の対応にほっと胸をなでおろす。どうやらツヅキはセーフらしい。


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