『graduation〜ウェディング〜』-11
「昨日、都築の結婚式でスピーチした。」
...知っていたのか。
「昨日来ていたよ。未来も里美も。」
仕方なく話す。
「皆、雪見に会いたがっていたよ。卒業してから連絡とれなくてショック受けた奴、結構多かったみたい。」
「...そう。」
「もちろん、俺もその1人。」
「......。」
上を向いたまま、雪見が目を閉じた。梅の花びらが雪のように彼女の顔に舞い降りた。
「梅の精みたい。」
柄にもなくロマンチックなことを口走ってしまうと、
「...桜の精の方がいいな。なんとなく。」
変なところで雪見はこだわった。
「昔ね、絵本かなんかで読んだの。桜の精が恋をする話。でも相手は兵隊になって戦争で死んでしまって、その桜は二度と花を咲かすことはなかったんだって。」
暗い話。
二人の間に沈黙が立ち込める。
「...もう最後だし、話すよ。佐伯。私が、なんでサークルの友人に不義理をしてしまったのか。」
意を決したように真っ直ぐと雪見は俺の目を見据えた。
「いや、もういいよ。分かったから。」
「え?」
「聞きたくないんだよ。あんたの口から、ツヅキが好きだったとかそういう言葉はっ」
「!」
怒鳴るような俺の言葉に雪見は大きな目を更に大きく見開いた。
「もう2度と会いたくないと思うほど、傷つけあったんだろ?」
半分自棄になって言うと、雪見の目からボロボロと涙がこぼれ落ちた。
「なんで、そんなことだけ気付くのよ〜。」
涙をこぼしながら言う彼女に、答えることはできなかった。
‘あんたが好きだから’
雪見のマスカラはボロボロに落ちて目の下が真っ黒になっていた。
全然大人になんかなれてないじゃん。
「馬鹿な女」
...でもそんな馬鹿なところがとてもとても愛しい。