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坂を登りて
【その他 官能小説】

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後編-8

 中根とはほぼ月に一度、日曜日の昼間と決めていたが、定期的ではなく、その気になった時に連絡する。その気、といっても小夜子が欲情したから、ではない。竹川を知ってからは彼で十二分間に合っている。だから、先生が待ち望んでいるだろうと、歓んでもらうための迎える気持ちの踏ん切りである。
 中根はいそいそと自転車でやってくる。いつも帰り際に礼を言う。やめてほしいと言うと、
「小夜子は僕の観音様なんだ。もったいなくて……」
「いやだ。先生もそんな冗談言うことあるのね」
『観音開き』を掛けた駄洒落だと思ったのだ。中根は意味がわからなかったようだ。
「冗談じゃないよ。本気だよ」
口を尖らせて言ったものだ。

 竹川を呼ぶ時は心してかかった。とても体力を消耗するのだ。平石の時も我を忘れたものだが、竹川は陰門に着火させてから時間をかけて小夜子を燃焼させてゆく。徐々に昇っていくのですべてを委ねて陶酔することができない。快感なのに耐えがたい苦しさが伴い、小夜子も全身を使ってせめぎ合いをする。体の奥から痺れが広がって何か叫ばずにはいられなくなる。そして必ず屈伏する。気持ちよくて、気持ちよくて……。でも、どっと力が抜けて、翌日まで尾を引くのだ。


 しばらくして不規則なローテーションに割り込んできた者が現われた。西沢昭一と井浦正である。
(また……)
ゼンリョウかと思ったら案の定だった。

「俺たちのマドンナなのに……」
抜け駆けしたと腹を立ててやってきたのだった。
 小夜子はカウンターの椅子に座り、二人を見据え、煙草を咥えて脚を組んだ。
(何がマドンナだ……)
馬鹿馬鹿しくなった。中学生の乙女に股を見せろと言っておいて……。抜けがけだなんて言いがかりだ。

「小夜ちゃん、ひどいよ」
小夜子はかちんときた。
「ひどいって、なによ。何であたしが責められなきゃならないの?筋がちがうでしょ」
「だって、俺たちに内緒でするなんて……」
「やりますって、お知らせするわけないでしょ」
子供のやり取りだと呆れながら、気を取り直した。
「ゼンリョウくん、お見合いしたの知ってるでしょ?彼、経験ないんだって。だから仕方がなかったのよ。わかって」
二人とも黙ってしまったところをみると、ゼンリョウの『童貞』を知っていたようだ。

「気の毒になっちゃったのよ。男ならわかるでしょ」
「だからって、みんな童貞の時はあったんだから。小夜ちゃんがその時いてくれれば……」
 ゼンリョウったら、男になった感激をつい話してしまったものとみえる。それにしても二人して『抗議』に来た魂胆は見えている。あわよくばご相伴にと目論んできたに決まっている。

「だからどうなの?どうしろっていうの?」
「どうって……」
二の句が継げないで互いに顔を見合わせた。
(漫画みたい……)
 思いながら、同時に、しょうがないな、と自嘲気味に心で笑った。
昭ちゃんも正ちゃんも不思議と脂ぎった厭らしさがない。みんな憎めない。それは心底思う。中学の時のまま止まっている感じだ。
(あたしのことが好きで求めているなら、いいじゃない……)
そう考えるとほんのり胸が温かくなってきた。

「わかったわ……」
小夜子は条件を出した。
「正ちゃんは一回だけ。昭ちゃんは結婚してるからだめ」
「え?そんな……」
「そりゃそうよ。奥さんがいるんだもの。悪いわ。でも、見せ合った仲だから、一度だけ確認しようかな。だけど、約束守ってね。他でいくら遊んでもあたしには関係ないけど、自分となると同級生だから気が咎めるの。絶対よ。秘密だからね」
 西沢だけでなく、井浦にも睨みを向けた。真面目に言っている自分が途中から可笑しくなった。

 妻のある西沢と交わることは彼女の信念からすれば不条理なことだったが、その時の小夜子の心境は思い出に支配されていた。ゼンリョウの部屋で息を詰めながら呆気なく性器を見せ合った五人の中学生。異なった性器は小夜子一人。よく平気で出来たものだと思うが、内心は平静ではなかった。真夏の蝉しぐれが耳を打っていたのは後から思い出したことだ。それほど緊張していたのである。その彼らと大人になって関係を持つ。何だか、変……。でも、誰も損をしたわけじゃない。
(それでいいじゃない?)
自分に問うたのだが、微笑んだだけで答えはなかった。


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