美しき姦婦たち-1
(19)
うつ伏せになって煙草を喫っていると真希子は彼の背に手を回して片脚を絡めてきた。
「義兄さん。もしできたら産んでもいいのね?」
坂崎は目で頷いた。
「そう。男の子がいいな。後継ぎ。……義兄さんと、お姉ちゃんと、あたしの……」
「でも、だいじょうぶなの?」
「なにが?」
「お義父さんたちは……」
「去年だったかな。父が、悠介さんと一緒になったらどうだって言ったことがあったの。その時は笑いながらだったけど、まんざら冗談でもなかったみたい。昔はけっこうあったみたい。姉妹のどちらかが後添えになるって」
「そう……」
「うちより、義兄さんのご両親は反対じゃない?」
「それはないよ。結婚するって聞いたら喜ぶよ。孫が欲しくてしょうがないんだから」
「相手があたしでも?」
「それは関係ないと思う」
坂崎は煙草を揉み消して真希子を振り返った。
「それより……」
「?……」
言いかけて黙っていると、
「娘たちのこと?」
「うん……」
「……そうね……」
「言いにくいけど、ああいうことになって、結婚するとなればあの子たちは戸籍上俺の子になるんだから、なんというか……。それでいいの?」
つまり肉体関係のあった親子になるということである。これは問題である。他人には洩れなくても自分の心情として簡単に整理することはできない。
真希子を見るとちょっと考える顔になっていたが、深刻な様子には見えない。
少しして、真希子は仰天することを言い出した。
「あの子たちの好きにさせる」
「好きにって?」
「まず、義兄さんとあたしは結婚しない。そうすれば彩香も美緒も今のままの立場。そうでしょ?」
「結婚しない?」
「そう。結婚しなくても子供は産めるわ」
「そうだけど、子供は?」
「あたしが産んで、義兄さんが認知してくれればあたしたちの子よ。お姉ちゃんの願いも叶えなれるし、義兄さんも子供が持てる」
「それで……」
想いが錯綜してきた。
「俺と真希ちゃんはどうなる?」
「ずっとこのままよ。愛し合うの。義兄さんさえよければ」
「だったら籍を入れたほうが面倒はないだろう」
「面倒よ、何かと。それに自由がないじゃない。義兄さん、それでいいの?」
「どういうことかわからないけど」
真希子は彼の背中に乗り上げて乳房を押しつけてきた。
「義兄さん、浮気したことない?あるでしょ?なくてもそう思ったことはあると思うわ。女だってその気持ちはある。だから、自由がいいの。縛らないし、縛られない。そういう関係がいいと思わない?」
何だか理屈で押され、おかしいと思いながら反論の隙が見い出せない。
「真希ちゃん……三年間も俺を待っててくれたんじゃ……」
「それは嘘じゃない。お姉ちゃんの話も本当よ。でも、男と女って慣れてくると新鮮味がなくなるのよ、お互いに。経験してるからわかるの。いつもべったりって、何かが見えなくなるわ」
真希子が顔を寄せてきて耳に囁いた。
「明日、あの子たち、来るの」
「え?……」
「三人で泊まっていいでしょう?」
「それは……」
混乱する頭を収拾しようと真希子の言葉を集めて組み立てようとした。動揺が基盤を崩し、断片があちこちに転がってとてもまとまりそうもない。
「二人は真希ちゃんがここに来ているのを知ってるってこと?」
「ええ、そうよ。義兄さんと結ばれるつもりだということも、子供を産む決意も言ったわ。電話のあと、三人で話し合ったの」
「話し合ったって、何を……」
「これからのこと、いろいろ。義兄さん、共通しているのは三人とも義兄さんが好きなのよ」
坂崎の思考は満足に働かない。真希子の話に少しの澱みがないことが信じられなかった。