美しき姦婦たち-3
(20)
夕方訪れた美緒と彩香は挨拶もそこそこに母親の顔を窺った。真希子が笑いながら頷くと二人は顔を見合せて声を上げた。
「やったね」
真希子の返事は坂崎との『話し合い』の結果報告なのだった。つまり、真希子が坂崎の子供を産むということ、である。そうなれば当然昨夜何があったか、それも含めてのことなのだろう。
「伯父さん」
彩香が無邪気に首に抱きついてきて、続いて美緒も絡んできた。若い汗が香った。どう対応していいか苦笑するしかない。
「ね、夕べどうだったの?」
「どうって?」
「だってお二人の初夜でしょ?」
「いいかげんにしなさい」
真希子が二人の頭を軽く叩いた。
「さあ、荷物を部屋に持っていって。汗びっしょりじゃない。伯父さん困ってるわよ」
二人を引き離した真希子は彼に向っていたずらっぽく笑った。
「ラブラブだったんでしょ」
「いいから。ごはんの支度できてるわよ。早くシャワー浴びてらっしゃい」
「はーい」
三人のやり取りが遠くから聞こえているような気がしていた。何という会話なのだろうとぼんやり思った。自然のままにと考えたものの、状況を納得できたわけではない。まだ現実とは思えないでいるのだ。しかし事態は確実に進行している。
真希子が抱きついてきて唇をつけてきた。尻に手が回り丸みを確かめるように撫でる。
下着のように短いショートパンツはほどよい肉付きの脚が露になってとても悩殺的だ。
「悠介……」
囁くように言って頬擦りをしてくる。
「これで、いいのかな……」
「何か、迷いがあるの?」
「だって、こんなことって……」
「あたしは幸せよ。あの子たちだって。それでいいでしょ。みんな自由。それが一番いいの」
浴室から子供たちのはしゃいだ声が聞こえていた。
賑やかな食事が終わり、三人は手分けして後片付けを始めた。あらかじめ決めてあったのかどうか、美緒が食器を流しに運び、彩香が洗い、真希子がそれを拭いて棚におさめる役割だった。
「お姉ちゃん、コップと油のお皿は重ねないで」
「洗えば一緒よ。そのための洗剤なんだから」
「ちがうの。いつも言ってるでしょ」
「わかった、わかった」
姉妹でも性格はずいぶん違うものだ。
三人の立ち働く姿は三様に魅惑的だ。腰回りは美緒が一番張っている。例の如く大きめのTシャツに下はパンティ、そしてノーブラ。彩香も同じである。そんな恰好でごく当たり前に食事をして楽しそうに片付けをしている。おそらくこれが彼女たちの日常なのだろう。
彩香は全体に小ぶりだがスタイルは抜群、モデル並みのバランスでとても可愛い。小悪魔である。これから熟していく魅力に満ち満ちている。
真希子は昨夜からさんざん触れていたのだから感触が残っている。背中から尻、太ももに滴るような色気が熱を帯びて立ち昇っているようだ。
片付けが済むと、
「布団敷いてくる」
首をすくめて笑いかける真希子と嬉しそうに彼女に従う彩香と美緒。三人は揃って奥の部屋に移動していった。
三人の後ろ姿を何気なく目で追いながら、坂崎はこの稀有な事態に対して気持ちを攻めに転ずる手立てを見出した。ふと思いついたものだ。
(陽子が仕組んだのだ……)
そう思うことにした。思うことで三人を正面から見つめることが出来る気がした。
三人とも陽子と同じ血が流れている。もし自分が他の誰かと再婚したら、おそらく月日とともに陽子の実家とも疎遠になるだろう。思い出すら薄れていくにちがいない。
陽子が真希子に哀願したこと、坂崎の子供を産んでほしいと言ったのは自分との絆を遺しておきたかったのではないか。きっとそうだ。……
こじつけも甚だしいと思いながら、考えれば考えるほど思いつきの深みにはまっていった。陽子の執念に操作されて全員が動ごかされているような気になってくるのだった。
真希子を抱くことは陽子の願いにつながり、美緒と彩香を愛することも陽子の血と交わることになる。この世にいない陽子を抱きしめることはできないのだ。……