クラスメイトはスナイパー〜鳥カゴの鳥〜-2
「でも……ダメだよ。鳥は鳥カゴの中にいなきゃ。君達は僕の飼い鳥なんだから……」
吹き抜けになった天上から柔らかな光りが差し込んでくる。
空を駆ける大型の航空機。
それを見て男は笑った。
「ウグイ、あれが鸛だよ。もうすぐあれが哀れな日本の皆に幸せを運んでくれる。楽しい事が始まるんだ」
もはや力無く男の手に掴み上げられたままのウグイは、それでも男を睨みつける。
「ウグイ、君は小さな頃から楽しい事が大好きだったよね?僕にもう一度楽しい話を聞かせてくれないか。昔の様に鳥カゴの中で囀ってほしいな」
「かっ……てな事、言わないで」
不意にウグイの口が動いた。
「私も……からすっちも……翡翠も……皆、自由になるんだ。わたし……たちには羽があるから……」
男の目が冷たい、心ない死体の様な目に戻った。
男は一度深い溜息をついた後、口を開いた。
「昔、言ったよね。鳥カゴの中の鳥は自由にはなれないし、一人じゃ空も飛ぶ事は出来ないって……。だから……」
―――僕が殺してあげるよ。
男の左目が色のない色に染まった。
烏は空を見上げた。
悪夢とも言うべき兵器を持ち、飛行を続ける鸛がいる。
「あれがプロジェクト鸛……ウグイ……三五……」
烏は走りだした。
――その先に待つ絶望に向かって――
――――3ヵ月前――――
なんで……?
どうして……?
どういう理由で……?
「どうしてキミが僕の家に、しかも自室にいるんだぁっ!」
両の手を頭の上で組み、外国人ばりにオーマイ・ガって感じでへこたれる僕。
「……どうも、おばさん。これからお世話になります」
「いえいえ、弾くんみたいなカッコイイ子を預かれておばさんも鼻が高いわよ」
って、ちょっと待て!
なんで僕をないがしろにして、つぅか……。
「なに和気藹々と挨拶し合ってんだぁっ!」
続いて名探偵ばりにビシっと母さんと烏丸 弾を指差す。
「あんた、うっさい!」
ズビシっ!
「ぐぅわっ」
液体にならぬ液体が鼻と目と口から同時に吹き出す。
原因は既に解明できている。華奢な体からは想像も出来ない様な、プロレスラー顔負けの殺人チョップを延髄に喰らったからだ。
こんな、どっかの漫画に出てきそうな謎の組織の暗殺者みたいな真似が出来るのは僕が知っている限りただ一人。
中谷 可奈子だけだ。
「いってぇ!何をするっ」
「いいじゃん、別に。死ぬわけじゃないんだし」
死ぬわけじゃないんだしって……まぁ、それもそうか。別に死ぬわけじゃないもんな……って。
「ちがーうっ!痛いだろ。大体強襲とか卑怯極まりないぞ」
「なに一人で騒いでんの?」
こいつに悪気と言う言葉はないのだろうか?
「ごめんなさいね、騒がしくて……」
「いえ、賑やかなのは嫌いじゃないですから……」
――――閑話休題――――
「んで、どうして君が僕の家に上がりこんで、あまつさえ出されたケーキをご馳走になってるんだい?」
僕は、僕の対面で胡座をかいてケーキを食べる烏丸に言った。
「このケーキ、おいしいね」
完璧ともいえる顔立ちで笑顔をつくり、ケーキを頬張る烏丸。
うん、僕の質問に答える気は皆無らしいな。
「てめぇ、ネタは上がってるんだっ!」
ズビシっ!
「ぐぉあっ!」
格好よく豪語した瞬間、首というか延髄にもの凄い衝撃が走り、その場に倒れ込む。