〜吟遊詩(第三部†地図番号1750Z160・交錯される真実と虚像†)〜-2
目を回しているミノアールに対し、サーペントは痺れを切らしたようで
『シャァー』
と喉を鳴らした。
(早く鍵を開けろよ…蛇には手がねぇんだからっ!)
「きゃっ!開けるわ!!すぐ開けるわよ」
慌ててミノアールが落ちている鍵に手を伸ばした。鈍い金色をした少し大きめのそれは、物質的にしっかりとした重さがあり、鱗からできたとはとても想像できないものだった。
鍵穴は抵抗する事なく、すんなりとサーペントが創った鍵を受け入れた。
「サーペントさん、開きましたよ」
ミノアールはサーペントが入れるように横によけながら扉を開けた。ユノとじぃちゃんが居た時と変わらず、ドアを開けた瞬間に目に飛込むメインフロントには、白い螺旋階段があった。
「まぁ…綺麗な階段」
うっとりと目を細めるミノアール。しかしサーペントはその階段には目もくれず、すぐ横にある部屋に入っていった。…と言ってもドアを開けるのはミノアールなのではあるが。
「サーペントさん…あの〜今の部屋が聖堂でしたよ?お祈りは……」
迷う事なく次々に部屋を通り、奥に進んでいくサーペントに不安を覚え、時折ミノアールが声を掛けた。しかしサーペントは聞く耳も持たず、ある目的のために進み続ける。
(こっちの方に…アダムの目当てのものがあるな。だんだん『アイツ』の忌々しい匂いが…強くなる)
そうして進んでいくとサーペントとミノアールは昼間だというのに少しも日の入らない暗い階段にたどり着いていた。教会に入った時に目に入る螺旋階段とは似ても似つかない場所だ。実際のところ、二人はユノの部屋の前に続く階段に来ていたのだった。
「蛇なのに器用に階段を上がるものですね。それにしても暗い階段…」
などと呑気に話しかけるミノアールの声などすでにサーペントには届いていなかった。
(あ゛ー!!ムカムカするぜ、この『アイツ』の匂い。ちっ。千年たっても忘れない匂いだな)
サーペントは無意識に眉間に皺を寄せ、小さく舌打ちを繰り返していた。
階段を上がりきり、ユノの部屋の前に二人は立つ…。
「えっと……ドアがありませんね」
ミノアールが呟く。ユノの部屋のドアは、椿たちが現れた晩にユノに壊されたままになっていた。サーペントは少し驚いたようだったが、
(ふん…。これがユノのブレッドか。まだこの程度だったとは…アダムの作戦も急ぐ必要はなさそうだな)
などと思い、その辺に散らばるドアの破片を器用に避けながら部屋に入っていった。
ベッドの横に小さなテーブルがあった。上には乱雑に広げられた雑誌やノートの陰に隠れて、ガラスでできた底が深めの入れ物がのっていた。中には黒いクズがたくさん入っている。サーペントは黒い塊になっているそれに顔を近付け匂いをかいだ。
(おぇっ……この匂い、間違いない。『アイツ』だ)
堪らず、顔を背ける。『アイツ』の匂いとは、セナともユノとも違う人物もので、サーペントには堪えられないくらい嫌いな人物のようだった。
黒いクズは少し息を吹き掛けると飛んでしまいそうなくらい脆くみえる。後ろからミノアールもそれを覗きこんできた。
「あら、何かを燃やした後ですね。黒い灰になってる」
確にミノアールが言ったとおり、黒いクズは何かが燃えた跡のようだった。
(ふ〜ん。ユノのやつアレを燃やしたのか…で、ミノアールの力が必要だったってことだな。アダムよぉ?)
【正解だよ……━━】
サーペントが考えていると急に部屋中に響きわたる声が聞こえた。
「えっ!?社長の声?」
ミノアールが反応する。
【サーペント、“ローカス=波動の258戒”を頼む】
アダムの声がそう言うと、サーペントの首の辺りの鱗が七色に光だした。