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THANK YOU !! ver. distance love
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-2



大学の講義が2時限で終わった拓斗は一人暮らしをしている自宅のマンションへと戻ってきた。
持っていたショルダーバッグをソファーへと放ると、真っ先にTVの電源を入れた。
映し出された画面には生中継の映像。
そこには、たった今成田空港に到着した楽団の面々が到着ロビーに向かって歩いている映像で、多くのマスコミは勿論、たくさんのファンが押し寄せている。
ある一人の人物を見るために。

TVをつけたまま、着替えてきた拓斗は冷蔵庫から飲み物を取り出してソファーに腰をかける。バッグからケータイを取り出すと新着メールが来ていないか確認してみたが、特に変わりは見られなかった。
数日前に送った瑞稀へのメールの返信が来ない。
確か、TVで瑞稀を含むオーケストラが再び日本でコンサートをやることになって、今回の主席演奏者を瑞稀が担うことになったと報道していた。
それを見た拓斗が励ましと頑張れという意味でメールを送ったのだが・・。

「・・まあ、忙しいんだろうな・・」

そう、結論づけて催促もなにもせずに大人しく待っていた。
でもここまで連絡を取れないのも不安なことは不安で、今日は瑞稀たちの到着を生中継すると知った時にTVで少しでも瑞稀の姿を見ようと思ったのだ。
本来なら、直接自分が迎えに行きたいのだけれど、さすがに瑞稀は遊びとして帰国してくる訳ではないので迎えの申し出をするのは躊躇った。
その結果が、今のこの状態だった。

『きました!!八神瑞稀さんです!』(ここからはTV内の会話)
「!!」

TVから聞こえた声に顔を上げて、画面を見つめると、ゲートを通り抜けて荷物カートを押しながら歩いてくる瑞稀の姿が映し出された。
白と桜色のTシャツを重ね着して、ショートパンツにオーバーニーソックスとバッシュスニーカーというラフな格好。腰には細いベルト2本と上着を巻いていた。ラフな格好なハズなのに、どこか大人の色気を感じるのは瑞稀の顔が無表情だからだろうか。
何ヶ月かに見る大人っぽい恋人の姿に、拓斗は思わず息を呑んだ。
瞬きも忘れるくらいじっと画面を見つめていると、次第にカメラが瑞稀を中心にアップで映した。
大勢のファンが待っている柵の向こう側を見て、少し驚いた様子を見せたがすぐに少し微笑んで手を軽く振った。
やはり、長旅の飛行機で疲れているのか、瑞稀の笑顔がぎこちないと拓斗は感じた。

『八神さんにお話を伺いたいと思います!』
「・・え」

リポーターの言葉通り、スタッフに促されるようにして楽団の列から外れ、瑞稀だけが特別なスペースに移動した。その時に、瑞稀は前後に居た仲間たちから言葉をかけられて、荷物カートを持って行かれた。瑞稀達のやり取りの英語を頭の中で翻訳しようとしていると、瑞稀にマイクが向けられていた。

『八神さん!久しぶりの日本はどうですか!?』
『・・思ったより、たくさんの人が出迎えてくれて、驚きましたが嬉しいです』

開口一番それか。と心の中で、非難していると瑞稀が答えた。
アメリカでは日本語離れをしているせいか、少し日本語がたどたどしかった。そして、自分の知っている瑞稀の声と少し違っていた。拓斗は、少し、瑞稀が違う人種のように思えてしまった。
寂しく思っているあいだも、瑞稀へのインタビューは続いている。

『今、楽団の仲間たちから声をかけられましたね!いつもあのような感じで練習しているんですか?』
『えっと・・まぁ、あんな感じですね・・人をからかうの、好きな人たちですから』
『楽しい風景ですね。今回、日本で再びコンサートということですが、心境をお聞かせください!』
『ん・・。母国である日本で演奏出来る事、嬉しく思いますし、有り難く思っています』
『今回、八神さんはコンマス・・つまり主席演奏者として参加ですが、意気込みをお願いします!』

そう言われ、マイクを向けられたその一瞬。一瞬だけ、瑞稀の顔が歪んだ。
今までよりも突きつけられたマイクに顔を歪めたのか。それとも・・

頭で考え答えを出す前に、TVの中に居る瑞稀は無表情に戻り、

『責任を持って、たくさんの人たちの期待に応えられるように頑張りたいと思います』

と、真っ直ぐな目で答えた。だけど、その目はどこを見ているか分からない。
それで言葉を切ると、瑞稀はマイクから身を翻して、マスコミの輪から離れて仲間たちが待つ場所へと向かった。もっと話しを聞きたいとマスコミが詰め寄ろうとするが、楽団側のスタッフが行く手を阻んだ。さすがにこれ以上は許してもらえないようだ。
仕方なく、番組のアナウンサーが生中継を終わらせた。
その間にずっと映っていた瑞稀の後ろ姿は一度も振り返ることをしなかった。

番組がいつも通りのニュースに戻ると、拓斗はTVの電源を消した。
何処か、釈然としない、複雑な気持ちで、一口も飲んでいなかったペットボトルを勢い良く口にした。




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