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THANK YOU !! ver. distance love
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-1



「・・・んっ・・」

久しぶりの、深い眠りから帰ってきた瑞稀の身体に感じた違和感。
それは長時間座っていたことから来るようで、少し身体をよじると身体が固まっているのが分かる。少しの痺れを感じながらもなお身体を動かすとなんとか違和感をぬぐい去ることが出来た。
その頃にはおぼろげだった意識も覚醒して、ハッキリしてくると自分が今どこに居るのかを思い出す。
無機質な天井。丸みを帯びた細い部屋。その中に幅広く3列ごとに並べてあるふかふかの一人用ソファー。その後ろの一つに自分が座っている。前の方ではずっと起きていたのか妙なテンションで騒いでいる少数の仲間たち。右側には先程の瑞稀と同じように寝入っているエンディの姿。左側に見える窓の外を見ると白い雲と蒼い空。
景色に目を取られていると、頭上のマークから『ポーン』という音が鳴る。
と、同時に、

『ただいまより、着陸体制に入ります。シートベルトをしっかりと締め・・』

その言葉に、瑞稀はチラッと自分の下腹部にあるシートベルトを見る。
寝入っていたものの、寝ている間に暴れたりはしなかったらしくてシートベルトは緩んではいなかった。
これなら大丈夫だなと思い、再び窓の外を見る。ただ、夢中になることは無く、先程まで見ていた夢を思い出す。

丁度一週間前に起きた出来事。全く同じで夢に出てきたそれには続きがある。


****


『ミズキには、次のコンサートでコンマスとして参加してもらいたい』(ここから『』は英語)
『・・・・・は?』

ボスの言葉に、瑞稀は理解が遅れた。何故かサラッと言われたが、とてつもない爆弾発言をされた気がして。

『いや、え、こ、コンマス?』
『あぁ。やはり、ソロを大々的に任せようと思うんだ。ミズキには主席演奏者としてどれほどできるか、見たいんだ』
『しゅ、せき、演奏者・・?』

ボスの言葉に、やっと瑞稀の思考が戻っていく。が、それと同時に戸惑う。
コンマス。というのは、コンサートマスターと呼ばれる、主席演奏者のことを指す。

『やって、くれるね?ミズキ』
『は、はい!勿論です!!』

再度問われる言葉に、瑞稀は感極まりながら大きく頷いた。嬉しさを隠しきれていない瑞稀の顔を見て、ボスも笑顔を浮かべた。
瑞稀の肩にポンと手をのせ、

『期待しているよ、ミズキ』

と、言った。その言葉に、一瞬動けなくなった瑞稀が答える前にボスは自室へ戻った。
思わず、瑞稀は振り返って何も言わずただその背中を見送る。
ギュッと握り締めたその両手は、かすかに震えていた。

次の日に、改めてコンサートに参加するメンバーが発表された。
瑞稀はボスから言われた通り、コンマス・・主席演奏者としての参加。
仲間が待ち望んだことが現実となって、仲間からは祝福を受ける。称えられ、持ち上げられ、期待をかけられる。瑞稀は思わず、仲間の言葉から目を背ける。
さらに翌日には、日本でもコンサートの事が注目を受け、また瑞稀がコンマスを務めることも広まっているのか、日本に居る家族から知り合いまでメール等で言葉と期待をもらう。
そのメールに一つも返事を送らないでいると、拓斗からもメールが届いた。

‐『すごいな、主席なんて。お前の演奏、楽しみにしてるから。最高の演奏してくれよな』
 
文面を読み終えた瑞稀は、静かにケータイを閉じた。ついでに、引きつった顔を戻す為に目も閉じる。

「・・・・こんなに、期待されてる」

コンマスとして、トランペット奏者として。
そんな純粋な皆の期待を裏切ることは絶対してはならない。絶対に。

「・・もっと、練習しなきゃな・・」

小さく、本当に小さく弱々しく呟いた。
呟いた通り、瑞稀は日本に来るまでに睡眠時間を削るほど練習を重ねた。
それでも、自分の思った通りの音から離れていくことに焦って、全体で曲を合わせているときに失敗を重ねていた・・。


****


『ミズキ』

ここ数日の事を思い出していると、右側から声がかかった。
振り返ると、エンディがなにやら心配そうな顔を向けていた。思わず、何かと身構えてしまう。

『大丈夫?辛そうな顔をしているけれど?』
『・・そう?大丈夫だよ。』

笑って、ごまかす。余計な心配はかけたくない。
瑞稀の作られた笑顔を見て、エンディは顔を一瞬歪めた。でも、すぐに『そう・・』と言って、笑顔を見せる。
その歪められた表情に、瑞稀はデジャヴを感じた。
どこか、いつか、見たことある表情。前に、瑞稀も大切な人に同じ表情をさせたことがある。
だけど、それが誰だったか。いつだったか。どうしてなのか。全く・・

「(・・覚えてない)」


心の中でそう呟いた瑞稀はざわざわとした気持ちを持ったまま、飛行機が成田空港へと着陸した。







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