調教開始-1
突然男はやってきた。
あの忌まわしい日から、毎日呼び鈴が鳴るたびに飛び上がった。
しかし、二週間ほどが過ぎ、もう現れることはないだろうと思いこもうとしていた矢先だ。
インターフォンのモニターに、あの野球帽を目深にかぶった男が映っているのを見たとき、みゆきはパニックになった。返事をせずに、凍りついてモニターを見ていた。
数回、インターフォンが鳴らされた後、男の姿がモニターから消えた。
どんどんと玄関のドアをたたく音に、みゆきは思わず悲鳴を上げた。
「奥さん、いるのは分かっているんですよ」男の無遠慮の大きな声がしている。
「早く開けてくださいよ。近所迷惑ですよ」
みゆきはモニターから視線を外し、頭を抱えてうずくまっていた。
どんどん!
「奥さん、今日から調教するだから、早く開けてくださいよ、アタシだって結構忙しいんですよ」静かな住宅街に声が響き渡る。
どんどん!
「奥さあ〜ん」
堪らず、みゆきは玄関に走り寄った。玄関のドア越しに男に声をかけた。
「お願いですから、帰ってください! お金、いくら用意すればいいのでしょうか」
「奥さん、アタシをまだ勘違いしていますね。この間は押し売りで、今日から調教師なの。奥さんのドMを引き出して商品にするの!」
声の大きさと話の内容の下劣さに、みゆきはこの声の主をこの世から抹殺してしまいたかった。
「奥さんを調教しにきたのぉ!」一段と大きな声を出した。
ついに根負けし、玄関のドアを細く開けた。と、男が待ってましたとばかり、になだれ込んできた。
「アタシだって、恥ずかしいんですよ。でへっへっ」馴れ馴れしく男はみゆきを抱きしめてキスをしようとした。
「やめてください、もう、来ないで。二度と来ないで!」
「あらあら、随分と嫌われちゃったわね。まっ、最初の頃はそんなもんですよ。さっ、地下室に行きましょっか」自分の家のように振る舞う男に叫んだ。
「絶対に嫌ですから! 帰って!」
「ふふふっ、好いですよ、奥さん。奥さんがお望みなら玄関先での調教も行いますよ。外に声が漏れたり、誰かが不意に訪問してくるのを気にしながら調教されるのも乙なものかもしれませんぞ、ひっひっひっい」男がみゆきの腕を強くつかんだ。
「だめですよ! だめ!」四つん這いで逃げ始めたみゆきの後を男が追う。そして、一枚一枚と衣服を剥いでいった。結局、みゆきは裸に剝かれ地下のトレーニング場に引き立てられた。
ベンチプレス・マシーン。仰向けになり、差し挙げたバーベルを胸の上に戻し、再び差し挙げるというウエイト・トレーニングでは最もオーソドックスなトレーニングをマシーン化したものだ。
そのマシーンが今や みゆきの自由を奪う役目をおっていた。
仰向けにされ、手はベンチの下に回され手錠を掛けられていた。麻縄で胸の上下がベンチに固定されている。乳房を挟むように縄が渡され、絞られた胸が上に突きだされていた。
その頂の乳首がバーに取り付けられたニップルバイブから伸びた鎖に吊られ振動を加えられている。
両足首もバーに拡げられて固定されていた。
バーの高さが胸から30センチ程の高さに調節されているので、自然と尻が高く持ち上がり、ひどく猥雑な姿を晒されていた。
「よろしいですかな、奥さん。今から調教を行います。今日はアナルの開発に取り掛かります。それとアタシのことは今からご主人様と呼んでいただきます。従順な奴隷となってアタシに尽くすのです。アタシの云うことは絶対です。逆らったりしてはいけません。分かりましたか」
みゆきは恥辱にうちふるえて、横を向いたまま何も答えなかった。
「さて、まず、名前は何と云うのだ、答えてみぃ」
「……」
「答えぬな。こうしてくれるぞ」
男の手がみゆきの胸を掴み、絞りながら揺さぶった。すでにビリビリと細かな振動で摘みあげられていた乳首が鎖に引っ張られ びくびくとした悦楽を伝えてくる。
「ああああっ!」感度の良いみゆきをさいなむ。
「ほれほれ、どうだぁっ、ああっ!」今度は2本の鎖を指いじりだした。
男が、ゆっくりと鎖を引っ張っぱると、クリップに摘ままれた乳首ごと乳房が不自然なほど尖る。その間も常に機械仕掛けの無慈悲な振動が加えられているのだ。
「くあぁっ!」痛みとも快感ともつかぬ微妙な感覚にみゆきが悶絶する。
その姿を男の濁った眼が観察している。それが興奮した時の男の癖なのか、唇を盛んに舐めている。
「こんどは ホレホレ」引っ張り上げた鎖を逆の手の指先で、こちょこちょと弾き始める。