(前編)-8
「ところで、どうして女を縛る必要があるのか…」
「殿方が安心して女と接することができますようにご配慮させていただいています…というよ
りここでご用意させていただく女は縛られることを自ら望んでおります…そういう女は世の中
にいるものでございます…念を押させていただきますが、女がどんなに愛おしくなっても、縛
った縄を解くことはなさらないでくださいね…」
と言いながら、老婆は、部屋の前で私が渡したお金を色褪せた布袋の中に入れる。
「ご安心なさってください…悪いことをなさるわけではありませんよ…こういうことを女自身
が望んでいることであり、女が納得したうえでお客様をお迎えしているのですから…」
案内された畳の部屋は、木戸のある縁側と障子で仕切られ、調度品もない殺風景な部屋だった。
床の間に置かれた燈明の灯りが妖しく部屋を照らし、部屋の真ん中の薄い布団の上には、白々
とした全裸の女が、後ろ手に手首を縛られ、胸部に黒い縄を絡ませたまま横たわっていた。女
は艶めかしいほどの光沢をもった素肌を晒し、微かな息をしながら深い眠りについていた。
「よく眠っておりますよ…年のころは四十を過ぎておりますが、見てのとおりまだまだ肌艶の
綺麗な女でございますよ…」と老婆は私の耳元に淫靡に囁いた。
私はその女をひと目見た瞬間、自分の目を疑った…。
薄化粧をしたその顔をよくよく眺めるほどに、目の前の女が公園で出会った「谷 舞子」と
いう女であることに気がついたのだ。
「どうかなさいましたか…まさかご存知の女ではございませんでしようね…」茫然と佇む私の
横顔を老婆がのぞき込む。
「い、いや…知っている女によく似ているが違う女だ…」
微かに頬が強ばるのを隠すように私は小さくつぶやいた。
淡い灯りの中で、「谷 舞子」という女は、蒼白い乳房の上下に幾重にも黒々とした縄を痛々
しく喰い込ませ、乳肉をぶるりとせり上がらせていた。下半身の恥じらいをやや隠すように太
腿を捩じり、布団の上にやや横を向いたように寝かされていた。
艶やかな黒髪がシーツの上に藻のように広がり、瞼をかたく閉じた彼女は眠っているというの
にどこか恍惚とした陶酔に浸るように薄い唇をわずかに開いていた。私は、自分のからだの奥
から搾り出されるような微かな疼きが淫靡に蠢き始めているのを感じた。
「さあ、お客様もお脱ぎになってください…」
老婆が私の着ている衣服を脱がせ始める。私はただ茫然とその女の前で佇みながら、老婆に操
られるように素っ裸の老体に剥がれていった。
「お気に召されたようですね…朝までごゆっくりお楽しみになってください…」と老婆は薄く
笑いながら私の衣服と下着をたたみ、布団の枕元に置くと、私と女を残して部屋を出ていった。