(前編)-5
私の視線は、その女のふくよかな胸のふくらみをなぞり、スカートからすらりと伸びた形のい
い脚を舐めるように這いまわる。彼女のストッキングに包まれた脚は、むっちりとした太腿か
ら膝に伸び、黒いハイヒールを履いた細い足首へと滑らかな線を描いている。身震いするほど
の色気を放つその脚に唇を寄せたら、私はあの頃の妻の性器の密やかな懐かしさを感じること
ができるような気がした。
まだ妻が生きていた頃、私は妻の脚をよく舐めていたことがあった。いや、妻は、私に脚を舐
めることを求めたのだ。妻の性器にふれる前に、私は必ず妻の脚を唇で愛撫し、足先の指のあ
いだに舌を差し入れた。唇の中に足指を含み、いつまでもしゃぶり続けていた。
妻は、私が性的な障害をもつようになってからは、特に足指を愛撫されることに性的なものを
強く感じていたような気がする。生きていた頃の妻もこんな綺麗な脚をしていたことに懐かし
い思いをめぐらせる。
そんな私の視線をその女は嫌がるわけでもなく、むしろそういう視線を這わせられることを
密かに楽しんでいるようにも見えたのだった。
彼女は結婚しているのだろうか…その男性はどんな男なのか…そんな空想がふと脳裏を駆けめ
ぐってくる。
「…あなたは、奥さんかな…」
「今は、違います…昔は奥さん、やっていましたけど…」
小さな笑みを浮かべた彼女の唇のあいだに冴え冴えとした白い歯が零れる。
「悪いことを聞いたみたいだ…すまないね…」
「いいんですよ…バツイチなんて、今ではふつうですから…」と言いながら、彼女はふたたび
パソコンの指を動かし始めた。
そのとき、ふたりの間にすっと秋風が吹きこんできたような気がした。
膝に置いたパソコンの下には、彼女のむっちりとした太腿が短いスカートからのぞいている。
思わず私は、その太腿に触れたくなる欲情に胸の鼓動が烈しく高まる。今にでも彼女のスカー
トを捲り、その太腿の付け根に顔を埋め、腿肌の柔らかさを頬に感じながら、彼女の性の源を
無性にまさぐりたかった。
ベールのような薄いストッキングの下には、きっと純白のショーツが、艶やかな陰毛の翳りを
含み、うっすらとした朝靄のように湿っているかもしれない。いや…彼女の下着は、眩しく照
り映えるような白さをもった乳房のぬくもりや熟れた肌の甘い匂いをいっぱい吸い込んでいる
に違いないのだ。もしかしたら、真っ白なショーツには芳醇な蜜液の染みのあとさえあるかも
しれない。そして、艶やかな秘所の肉の合わせ目は、澄みきった蒼い月灯りを含んだような
煌めきをもち、きっとラベンダーの花汁をまぶされているのだ。
目を閉じた私は、まるで夢を見るようにその女の下着に頬を寄せる自分を想い浮かべる。彼女
の嗚咽さえ聞こえてきそうなくらい下着に頬ずりし、彼女のからだに触れることで私は懐かし
い自分を取り戻すことができるような気がした。
彼女の下着が不意に剥がれ落ち、彼女の乳首の先端と秘所の果肉の裂け目から洩れた甘い蜜の
雫が、まるで宝石の輝きを含んだように滴り落ちようとしている。それを私は唇で受け止めよ
うとしていた。そのとき私は、胸の鼓動が押さえられないくらいの欲情に溺れようとしている
自分を感じることができた。