(前編)-12
「お目覚めになりましたか…」という老婆の声で目を覚ましたときも、あの女は縛られたまま
昏々と眠り続けていた。
「そろそろお帰りのご支度をなさってくださいね…」と部屋のふすまを開けた老婆が低い声で
言った。
眠った女が目を覚ます前にこの旅館を出ることが条件だった。まだ夢心地の私は女のからだに
毛布をかけてやると裸のまま、よろよろと立ち上がった。
縁側の障子を開ける。高台の旅館から見える穏やかな海と空の境に、薄紫の黎明の光が滲み始
めていた。
忍び込んできた朝の冷気に素肌をすっと撫でられたとき、私は下腹部にべっとりと滲み出た白
濁液に気がついた。夢精だった。あの事故以来、性的に不能だった私は数十年ぶりの精を放出
したのだった。
「いい夢をごらんになったようですね…」と老婆は私の濡れた下半身をしげしげと見つめなが
ら陰気に囁いた。そして、私の股間の前に跪くと、ねっとりと顔を埋め、滲み出た私の白い
精液を唇でゆるりとすすったのだった…。