(前編)-11
曼珠沙華の花畑の中から妻がこちらに向かって走ってくる。胸にひたひたと押し寄せる瑞々し
いものが、私の胸を強く締めつける。やがて眼前にはっきりと妻の姿を私はとらえた。咲き乱
れた紅色の曼珠沙華の中で私は彼女を強く受け止め抱きしめた。
妻の白い下着がこぼれるように風に靡いている。
…抱いて欲しいわ…妻の小さな呟きが、ふと聞こえたような気がした。白いベールのような下
着がゆったりとした乳房を包み込み、その胸元の谷間は、降りつもった白い雪の翳りのような
溝をもっていた。
丸みを帯びた腰…そして、ゆるやかな線を波打った白い腹部は、遠く懐かしい海の穏やかなさ
ざ波を思わせる。薄く透けた下着が白くむっちりとした太腿の付け根の恥じらいを湯煙のよう
に仄かに覆っている。
私は、まどろむようにじっと妻の顔を見つめ続けていた。やがて私の視界が妻の淡い体で充た
される。私の肉体が熱をもち、曼珠沙華の微睡むような甘美な匂いのなかで浮遊し始めていた。
そのとき妻の下着がはらりと風に運ばれ、空に舞い上がった。
私と妻のまわりは、昼でもなく、夜でもない淡い光に包まれ、咲き乱れた曼珠沙華の花絨毯が
どこまでも無限に広がっていた。
私の胸中に靄のようにくすぶっていた欲情が、少しずつ形を描き、至福に充たされたような
優しさをもって胸底からゆるやかに湧き上がってきた。
そして、夢の中のその妻に最初に接吻したところは、やはり彼女の細く美しい足首だった。妻
がそうしてくれるように囁いた気がした。秋の雨のようなどこか寂しげな足首に、私は頬ずり、
唇を寄せた。妻の前に跪き、彼女のからだの中から溢れるすべてのものを抱きしめるように包
んであげたかった。
陰部を覆う草むらは、どこからか吹いてくる湿った風に、まるで戯れるように靡き、その陰毛
の先端は、楽しげに舞っているかのようだった。妻の麗しい草むらは、やがてきらきらとした
花畑のように萌え始め、刻々と煌めきを増し、眩しげな肉の割れ目に美しい光をまぶし始める。
その肉襞の奥から雫が滴る音がしたとき、私は、妻のからだの中に紅色の悲しげな曼珠沙華の
花の広がりを見たような気がした。
妻の性器の中がかさかさと濡れる音がする。やがて、蜜液が湧き上がる音が木霊のように響く
と、妻の切ないような吐息が私の肌に吹きかかる。そして彼女の影が私の中にひっそりと佇み、
どこか郷愁にも似た匂いを漂わせると、私は妻の陰毛を掻き分け、強く腰を押しつけた。
自分の中の硬く凝結したものが妻のからだを貫いたような気がした。貫いたものはやがて冴え
冴えと輝き、妻の中を奥深く彷徨い始める。
私は妻のすべてのものを貪り、その奥底にたどり着きたいと思った。からだの中の夥しい血管
が隆起を始め、混濁した欲情が雨上がりの空のように澄み渡っていく。そのとき私は、身震い
をし、からだの中にすっと迸る甘美な精液の流れを感じ、激しくのけ反ったのだった…。