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愛の手紙
【その他 官能小説】

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愛の手紙-1

 鮮やかなさみどりの若葉が街を被い始めた頃、一通の手紙が舞い込んだ。差出人の名も住所もなく、W・Tのイニシャルだけが書かれてあった。萌黄色の和紙の封筒からは仄かな甘い香りが香った。

『拝啓
 季節の移ろいは美しくも儚く、いつの間にか桜が散り、追いかけるように、はや新緑の時節となりました。
 高校卒業以来七年が経ちました。あなたに手紙を書くのは初めてのことです。きっと私のことは憶えていらっしゃらないと思い、あえて名前は伏せます。失礼をお許しください。
 先日、偶然Y駅のロータリーであなたをお見かけました。駅前でどなたかと待ち合わせだったのでしょうか。噴水のそばに佇むあなたを、バスの窓越しに認めた時、懐かしいあの頃が甦ってきて胸が熱くなりました。
 あなたとは一度も言葉を交わしたことはありませんでしたが、私の心には今でもあなたが息づいています。野球部で真っ黒に日焼けした逞しい姿は私の心の拠り所でした。校舎の窓から広いグラウンドの中でプレーするあなたの動きを追うのが毎日の楽しみでした。
 その頃の爽やかな印象がそのままだったことに驚き、ついペンを執ってしまいました。
 いまはお仕事されているのでしょうね。陰ながらご活躍をお祈りしております。熱い思い出をありがとう。乱筆乱文お許しください。
                                      敬具 
上杉勝哉様
                                   W・T 』

「なんだ?これは……」
上杉は呟き、首をかしげると、はて、誰だろうと考えた。
 同級生の女子の顔を思い浮かべてみた。印象に残っているのは数人しかいない。スタイル抜群で美人のU子、胸の大きなA美、活発だったS代。彼女たちとは親しかったから対象にはならない。それから……。大半が忘れている。
(見当もつかない……)
卒業アルバムを見れば記憶を辿ることもできるだろうが、実家の押し入れかどこかに仕舞ったままで取り出してみたこともない。
(面倒だ……)
そこまでする意味もないし……。
 便箋を封筒に入れ、棄ててしまおうかと思ったが、机の上に放り投げると畳に仰向けになった。

 高校時代ーー。辛い練習の記憶だけが残っているといっていい。一年の時は先輩に扱かれ、何度『根性』を入れられたことか。甲子園など夢のまた夢という実力なのに監督ばかりが燃え上がっていて正月三が日以外は休みがなかった。ボールが見えなくなるまでグラウンドの練習は続き、それから素振りを五百回。家に帰って飯を食い、風呂から上がれば後は寝るだけである。勉強などとてもできなかった。

 そんな疲労困憊の状態でも布団に入れば毎晩のように勃起した。まるでそれまでじっと息をひそめていて、「オレヲワスレルナ」とでも言うようにむくむくとパジャマを持ち上げた。
 不思議なことに疲れた時の『センズリ』が格別だった。その快感といったら、体の奥底から自分が溶けてしまいそうで、全身がうねって抑えが利かず、その瞬間は光が閃いて頭が真っ白になったものだ。道端に放り出されたザリガニみたいにピクピクと痙攣した。

(とめどない若さが溢れていた……)
いままだ二十五歳だが当時の硬直、迸りは失われつつある。あの頃はスリコギのようだった。
(その頃告白してくれたらいくらでも相手をしたのに……)
上杉は勃ち始めたペニスを握りながら、ふたたび手紙の主を想像した。
 どんな女だろう。気持ちが昂ぶってくると確認したい欲求が強くなってきた。思い出などと言わずに今だっていいではないか。名前と住所を教えてくれればこっちから会いに行ってやる。
 三カ月前に付き合っていた女と別れて以来、手慰みの日々が続いていて悶々としていたところであった。

 バスに乗っていたということは同じ町にすんでいる可能性が高い。たまたま訪れたとは考えにくい。ここのバスはすべて市内を循環している。だとしたらまた顔を合わせることもある。問題はこちらが相手の顔を知らないということだ。向こうに見つけてもらうしかない。自分に視線を送ってくる女を見極められるかどうか。
(駅前辺りをぶらぶらしてみるか……)
 十日ほど前に噴水のそばにいたのは事実である。待ち合せではなく、会社の帰りで、どこで飯を食おうかと考えていただけだった。
 彼女もきっと勤め帰りだったのだろう。夕方駅前をぶらついてみることにした。どうせすることもない。
(それと、アルバムだ……)
出来る限り顔を憶えておくほうがいいだろう。上杉は次の休みに実家に行くことにした。


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