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愛の手紙
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愛の手紙-7

 翌日、彼は理由をつけて早めに退社した。梅雨の走りの小雨まじりの日だった。
 駅前に着いたのは五時半前。いつもなら六時前後にこの辺を通るから、女もその時間帯のバスに乗るのだろう。雨のせいか、まだ時間が早いからか、人通りが少ないように思えた。

 上杉はカフェに入った。時間つぶしを兼ねて、念のために店内の客を確認しておこうと思った。
 若いカップルと女子大生風のグループ、それに高校生の一団がたむろしていた。明らかに対象外なのでほっとした。

 窓際に座って色とりどりの傘が行きかう光景を眺めながら、今日は暗くなるのが早いなと思った。
 女の手紙を改めて思い出す。
高校生の時から想い続けていたという。それほど恋い慕う相手にあそこまで淫らなことが書けるものだろうか。
(ひょっとして、女のいたずらでは……)
何のために?……いや、ちがう。こんなに手の込んだことをして何の意味がある。
 店内の客は少し増えたものの年配の客ばかりである。

 上杉は店を出るとバス停に向かった。バス停からは店の出入り口もよく見える。そちらの可能性も頭に入れることにした。注意すれば見逃すことはないだろう。

 六時を過ぎてバス停の近くに立った。乗り場には屋根がついていてみんな傘をたたむので顔はよく見える。逆に上杉は屋根を外れているので傘で顔を隠すことができる。
(絶対、見つける……)
何度も目に焼きつけた和田妙子の顔を脳裏に映した。

 時が迫ってきた。バスが発車する毎に乗客が増えて列が長くなる。一台が出て行くと次のバスの座席確保の数人が残り、やがて一人増え、二人増え、つながっていく。カフェの方にも目を向けた。

 六時半前にほぼ満員のバスが出た。
(いない……見落としはない)
時刻表をみるとその後は四十二分、次は五十分である。これまでの状況から推測すると五十分ではない。
 列が伸びていく。上杉は昂奮を覚えながら並んだ乗客の顔をゆっくり確認していった。
(いない……若い女……女子高生が一人……)
ならば、次のバスか?

 遅れていたバスが到着した。雨の日の夕方は渋滞のため遅延する。
ぞろぞろと列が動き始めた。
(このバスのはずなのだが……)
 彼は焦りを覚えて乗降口のそばまで行き、ふたたび乗り込む顔を確認していった。気が急いていた。やや年配の客にも、若すぎる娘にも念のため睨みつけるように視線を向けた。訝しげな目で女子高生が上杉の行動を追っていた。その視線に気づき、彼は一歩後ずさった。

 乗客の列は徐々に短くなり、最後に小太りな男が乗り込んだ。運転手が上杉に目を向けたのは乗る気があるのか確かめる意味だったのだろう。彼は手を振って意思を伝えた。

 扉が閉まり、バスがゆっくり動きだした。車内からじっと見つめる目があった。落胆してバスを見送る彼の視線と合致したのは偶然である。
 吊革につかまった男。最後に乗ったデブだ。……
 バスの窓に滴が流れた。
(見覚えがある……)
記憶はすぐに甦った。
(同級生だ……)
大人しいやつ……。あいつは、何ていったっけ。……
(和久井、正……)
そうだ、書道部の和久井だ。
上杉は茫然と佇んでバスのテールランプを見送っていた。
 


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