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愛の手紙
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愛の手紙-3

 二通目の手紙が届いたのは半月後のことである。

『先日は失礼なお手紙を差し上げました。名前も書かずにイニシャルだけだなんて、常識のないやつだと思われたでしょうね。あの時、私自身迷ったのですが、自分の想い出の中だけにあなたが存在して、それを一人で抱きしめていることを考えると、やはりお知らせしないほうがいいと思ったのです。身勝手をお許しください。
 先週の木曜日、またあなたにお会いできました。嬉しかった。もちろんあなたは私に気づかずに噴水の周りを歩いていました。胸が苦しくなって痛みました。想い出の人として大切に心に仕舞っておいたあなたが目の前にいることで気持ちが動揺してしまいました。
 こんなことを書いてご迷惑でしょうね。自分でも変だと思います。でも、揺らいだ想いが治まらないのです。書かずにいられないのです。ご不快でしたらすぐに棄ててください。ごめんなさい。

上杉勝哉様
                                 W・T 』


(近くにいたんだ……)
なぜ声をかけてくれなかったんだ。……

 読み終えた手紙を見つめながら上杉の胸にふつふつと湧いてきた想いは、
(これは、ものになる……)
そのことだけだった。相手にこれだけ気があるんだから話は簡単だ。ただ、それが『誰』か特定できれば。……

 上杉はアルバムを開くと、和田妙子の顔をじっと見つめて頭に叩き込んだ。
(同期ではこの子しかいない……)
可能性を広げたらきりがない。取りあえず和田妙子にしぼって、あとは様子を見るしかない。
 当時の面影は残っているだろう。似た雰囲気の女には思い切ってこちらから声をかけてみよう。引っ込み思案のようだから切っ掛けを与えないと難しいように思う。

 アルバムを片づけながら手を止めた。ふと疑問がわいたのである。
(なぜ俺の住所を知っている?)
実家を出て一人暮らしを始めたのが二年前。そのことは大学時代の一部の友人以外に知らせてはいない。
(実家に訊いたのか?)
アルバムには別冊の住所録も付いている。
 上杉は母親に電話をかけた。
「誰からもないわよ。あってもセールスだと困るから教えないわよ」
母親は人一倍用心深い性格である。

 それならば、どうして……。
まさか、後を付けてきたりして……。上杉はそんな想像をして、先ほどの意気込みの側面に何ともいえない不気味なものを感じて俯いた。

(しかし、それほど俺を好きだということなのだ……)
厭な思いを打ち消すようにまだ見ぬ女体を妄想した。

(もう一度、今度はじっくり探してみよう……本気で……)
 女の方から熱烈な好意を寄せてきている。こんなチャンスはそうそうあるものではない。
 多少の辛抱はしなければ、もったいない。上杉は苛むように疼く体を持て余していた。


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