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殺人幇助財団エカフ
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トオルの場合-4

「おい美佐子ママ。出張サービスしてもらえるとは嬉しいな」

青田の言葉に美佐子はしんみりとに答えた。

「そりゃあ、あの若者たちの死には私にも責任があるから。

追悼会をやるって聞いてかけつけたのよ」

「追悼会ってほどの大袈裟なもんじゃあないよ。

あいつらとは随分一緒に飲んだことがあるから、哀悼の意味を込めて飲もうってだけの話しだよ。

まあ、あいつらも楽しいことが好きだったから、陽気にやろうや。

それが供養ってなもんだよ」

「そうですね。全くだ。

私の店の『甘茶』で飲んだ後で事故ったから、気が重かったけれど、暗い顔してちゃ仏さんも浮かばれないってもんだよね」

「そうだそうだ。ママ、何か面白いこと言ってみろ」

美佐子は手に持っていた塩鯖の鱗の縦じまを指さしておどけて言った。

「塩鯖の目盛♪」

「はっはっは……意味が分からないが、面白い」

大山が笑うと他の腰巾着の3人も笑った。

大山は意味ありそうな目つきで美佐子の体を嘗め回すように見て言った。

「ここで飲んだ後、2次会で町に繰り出そうか? どこか良いところないか?」

「それじゃあ、『甘茶』を開けますよ」

「なるほど自分の店を自薦ってことか。はははは……」

「好みの上では自薦BAR♪」

「はっはっは……きっと面白いこと言ったに違いない。笑え、笑え」

大山の言葉に腰巾着の真崎・胡桃沢・西森もげらげらと笑った。

局長の青田は「寒い、寒い、寒すぎる」と合いの手を入れていた。

「窓を閉めているから、寒くないだろう」

大山の声がした。

美佐子は村の自治会館の勝手口から出て、外に置いてあった炭火に塩鯖を置いて焼いた。

塩鯖が焼きあがった頃、手伝いのかみさんたちが手を止めて耳を済ませた。

何か道路の方から音楽が聞こえる。

「あれれ、あれって移動売店じゃないかい? いつもの車とは違うね」

「今日は来る日じゃないから、別のだよ。行ってみようか?」

「それじゃあ、私が行ってみる。塩鯖出しておいてね」

美佐子はそう言って、道路に向かって走って行った。

だが慌てて間もなく戻って来た。

「奥さんたち、凄く安いよ。魚も野菜も新鮮で値段が格安なんだから」

その言葉にかみさんたちは飛びついた。急いで移動販売のトラックに殺到した。



メールが来たので、トオルは潜んでいた美佐子の軽自動車の後部席から姿を現した。

『勝手口が開いているので、炭火を中の土間に入れてから戸を閉めてください。

その後、美佐子さんの軽自動車の後部席に戻ってシートを被って隠れていて下さい』

物凄く長い時間が過ぎたような気がした。

微かな人の気配を感じたが、村の者ではないようだ。

もちろん大山や青田の奥さんたちも戻っては来ない。

そして、メールが来た。

『今、中の5人の死亡を確認しました。

一酸化炭素中毒です。

寒いので炭火を部屋の中に入れて暖を取ったことにしておきました。


今美佐子さんたちが戻って来ますが、奥さん達が異常に気づく前に車を出します』

やがて美佐子達の声が聞こえて奥さん達が戻って来た。

奥さんたちが会館に入る前に美佐子は陽気に喋りまくり、奥さん達に別れを告げた。

「それじゃあ、私これから戻って店を開けなきゃいけないので。先に行って準備して来ます。旦那さんたちには、お待ちしてますってお伝え下さい」

「はいはい、どうも。きょうは昼からありがとうございます」

車が出ると美佐子は喋り出した。

「向こうに着くまで隠れていてね。

エカフの人が言ってたよ。できるだけかみさんたちを引きとめろって。

女って欲深いから格安の物があると、いらないものでも買おうとするのね。

あの店はエカフ財団が手配した店だそうよ。

でもね、あの炭火だけじゃあ、すぐには死なないらしいわ。

だから一酸化炭素入りのボンベを数本使ったってさ。

その後、窓を開けて少し薄めたって。中に入って来た奥さんたちまでも殺しちゃいけないからね。

それと私、実は大山に金を借りていたことがあって、それはもう返したんだけど、利子代わりに体を奪われたの。

だからいい気味よ。あんな奴、いなくなってどれだけ世の中の為になったかって」

美佐子は喋り続けた。喋らずにはいられなかったのだ。

その日のうちに自治会館で5人が一酸化中毒で死亡したと新聞に載った。

それから数日後、トオルが硫化硫黄で自殺した。

会社の独身寮で休日全員が出払っているときを狙って死んだものと思われる。

美佐子はその日店を閉めて1人で酒を飲み明かした。

殺人幇助財団エカフは本来、殺人・暗殺を生業とする秘密結社だったが、最近ありあまる財力を背景にボランティア事業としての殺人幇助活動もするようになったという。

だが、その存在を知るものは殆どいない。

この世にいなくなれば良い命など存在しない、と良く言われる。

本当にそうならば、エカフも必要ないのだが……。

もし、身近な人間に世の中の為に消えた方が良いと思う者がいたなら、ぜひ根気良くネットなどを通じてそれを訴えてほしい。

そのうちエカフの方から接触してくると思うので。

その節は宜しく。実行犯はあなたになるので、その点はお間違いなく。


完    


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